第5話 地上
「ついに地上に戻れるの?」
「ああ、戻れるとも。本当はずっと前に戻れたんだけどね......。」
アルは含みのある言い方で、少し寂しそうに言った。
「もしかして、この空間を出たらアルは消えてしまうの?」
予感はしていた。アルは使命を果たしたらきっと成仏してしまう。そんな気がしていた。
「すでに知っている通り、私は約100年の間をここで1人で過ごしていた。100年という時はとても長く退屈だったよ。でも、そこに君が現れた。」
「アル、、、、」
「君が現れてからの数年はとても楽しかったよ。最初現れた時は血塗れで何かと思ったけどね。」
本当に楽しそうな顔をして、そう話す。
「あ、あれは、仕方なかったんだよ!それに僕だって、最初アルに会った時はびっくりしたんだから、、、。」
無理矢理に笑顔を作りながら、僕は言った。
「楽しい毎日だったけど、そろそろ君を旅立たせなくちゃね。君にはまだまだ教えたいことがあるけど、生前の私の魔力も尽きてきている。君が来なかったら、私は1人で消えていくところだった。」
たしかに最近のアルは魔法を使うたびに、存在が薄れるような感じがあった。僕はずっと気づいていたのに、気づかないフリをしていた。
「いやだっ!!消えないでよ!!まだ教えてほしいことがいっぱいあるんだ!魔法だけじゃない、くだらない世間話も、ちょっとした会話も、まだまだ足りないよ!」
もう自分が子供じゃないことも分かっている。だが、今日この時だけは子供のようにわがままになりたかった。
「ありがとうライアス。私はとても嬉しいよ。こんなに私のことを思ってくれる弟子がいることがとても幸せだ。」
アルは今にも消えそうなくらい薄れてしまっている。
「ありがとう。そして、これからの君の旅に幸があらんことを。君ならきっと大丈夫だ。」
そう言ってアルは僕を抱き寄せ、最後の魔力を使ってまじないをかけてくれた。
「アル、、、僕の方こそ感謝しなきゃなのに、、、」
アルが光の粒となって消えてしまった時、僕は涙を流しながら、膝をついて嘆いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アル、僕頑張るよ。アルの守りたかった世界を僕も守ってみせるよ。」
アルとの空間を出て、僕はアルに誓った。
「やっぱりダンジョンの中であることは変わらなかったか。“あいつ”は流石に討伐されたかな?」
“あいつ”とは、僕がアルの空間に飛ばされるきっかけとなったデミ・ミノタウルスのことだ。
「“あいつ”には感謝しないとな。もし生きてたらお礼でもしなきゃ。」
僕の予想に反して、ダンジョンの上層へ向かっても一向にデミ・ミノタウルスは出てこなかった。しかし、上に向かえば向かうほどに力尽きて倒れている冒険者や砕かれた武器に防具も落ちている。
さらには、上に行けば行くほど最近やられた形跡があるのだ。
「嫌な予感がするな。」
そう呟くと、さらに嫌な予感は増した。
気づけば最初の講義の時にゴールとされた転移魔法陣の近くに来ていた。
「来るか。“あいつ”が。」
僕の直感がそう告げていた。
案の定、“あいつ”は来たのだ。
「ブモオオォォォォ!!」
デミ・ミノタウルスは叫び声とともに手に持っている斧を振り上げ、襲ってきた。
「うおあっ!」
あの時の恐怖がよみがえり、つい避けてしまった。
「僕はもうあの時の無能と呼ばれた僕じゃないぞ!」
そう自身を奮い立たせた。
そして、アルとの修行で身につけた“強化魔法”で全身を武装する。
「ブルモウゥォォォ!!!」
頭の角を使った突進と斧の攻撃を合わせてくる。
「遅いっ!それに、背中がガラ空きだ!」
最大級の力を込めて拳を叩き込む。
「ブモッッ?!」
デミ・ミノタウルスは驚くと同時に床に打ち付けられた。
「これは耐えれるかな?」
魔法の弾を放った。
「?」
対して火力も無さそうな魔力の塊にデミ・ミノタウルスはニヤリと笑って弾き返そうと斧を振るった。
「!!!」
しかし、弾き返そうとした次の瞬間、勢い良く吹っ飛ばされたのはデミ・ミノタウルスの方だった。
「これで終わりだ!!」
右手だけに魔力と力を込め、とどめを刺した。デミ・ミノタウルスは消滅し、魔石が現れた。
「やっと地上へ帰れる。」
僕は転移魔法陣で地上へと戻ることにした。
「ふぅ、何年振りの地上だろう。眩しすぎて目が開けられないや。」
『そうだね、久々の地上は良いものだね。』
声の主に僕は驚いてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます