第14話 王族領カレニア②
闘技大会まで残るところあと1週間となった。
「ライアスの長所は私と同じく魔力量が多いことに限らず、魔力制御も良いと思う。それ以前に私達は、既存の魔法師達とは違うから試行錯誤するしかないのが難しい所なんだよね。」
「うーん、ただ、今まで通りだと通用するか怪しいよね、、、。バサークさんの時は、魔力量で凌いだ所もあるけど。」
「あの時はぶっつけ本番に近かったよね。私との修行でも必ず成功してたわけではなかったし。でも今は、前より上手に魔力を使えてるから、より強い敵にも通用する可能性はあると思う。」
僕とアルは互いに話し合いながら、無属性魔法の強化を図っていた。
◇◆◇◆◇◆
「ロン、私達も負けてられないわ。魔鉱石を用意して頂戴。」
「かしこまりました、キャサリンお嬢様。私も大会に向けて、お嬢様を護るためにも必ずや強くなってみせます。」
「ロン、ごめんなさいね。貴方まで巻き込んでしまって。」
「何を言ってるんですか、お嬢様。私はお嬢様が居たからここまで生きてこられたというのに、、、キャサリンお嬢様が居なければ、私はあの日を、あの日々を生きてはいけなかったでしょう。本当に感謝しています。」
––––ロンは、キャサリンより5つほど年上で今現在22歳である。
しかし、12年前、キャサリンに会うまではカレニア領のスラム街のような所で生き絶えそうになっていた所を助けられたのだ。
ロンは、自分よりも年下で良い生活をしているキャサリンを初めて見た時は心底世界を憎んだ。世の中は不公平だ、と。
生まれた時から全てを与えられている者はいるのだと知った時、それまでの自分が酷くつまらない存在なのだと感じた。
しかし、そんなこととはまるで無縁な彼女は、僕に屈託のない笑みで微笑んだ。
そんな少女の純粋な優しさから出た言葉があった。
「一緒にご飯食べまちょ!おいちい物を食べれば元気になるってお母様がおっちゃってまちた!」
「、、、いいのかい。こんなボロボロの僕がいって怒られないかい、、、?」
「うん!!お母様もきっと喜ぶ!!こまってる人がいたら手を差しのべゆって言ってた!」
「そうなのか、、。僕はこまってる人だったのか、、、うっ、うぅ。」
ロンは生まれた時から親を知らない。生まれた後も孤児院をたらい回しのように移され、10歳を迎える前に一人立ちと称して、事実上追い出されたのだ。
孤児院は、貴族や有力者に取り繕おうと、少しでも見た目の良い者や従順な者を優遇していたためだ。
その頃のロンは親がいないことや孤児院の人間への不信感から1人でいることが多かったため、不遇な扱いを受けた。
一人立ちしてからは、仕事にありつけない日々の中で、物乞をしてその日を生きていた。
そんな彼が人の愛情を、優しさを初めて知ったのだった。純粋無垢な少女、のちに自身が忠誠を誓い仕える相手はとても心根が優しく、純粋すぎるほど純粋だった。
彼は自分の浅ましい考えやプライドがバカらしくなってしまった。
そして、少女キャサリンの好意に甘えることにしたのだった。
「いらっしゃい!あなた、キャサリンがお客様を連れてきたわよ!さすが、私の娘だわ!」
「おお、来たか!使いの者から聞いているよ。ささ、早く中に入りたまえ。外は寒いだろう。」
ロンは驚いて、しばらく涙を流しながら、ぼうっとしてしまった。
これまではお前にやるもんなか無い、薄汚いからあっちいけ、など10歳そこそこの子供には過剰過ぎる暴言が飛び交っていたのが当たり前の光景だった。
しかし、ここはどうだろうか。こんな自分を受け入れてくれる人達もいるんだと信じられなかった。特に、貴族であれば尚更のことだった。
「実はあなたの話は使いの者から聞いているわ。ここにはあなたを傷つける者はいないから安心していいわ。それに、私達を親だと思って接していいのよ。」
「そうだぞ。私達は君の味方だからな。」
「ありが、、とうございます、、うぅ。」
「お兄さんなんで泣いてるの?どこかいたいの?お兄さんが泣いてるとあたちも、かなちくなる。」
「キャサリン、お兄さんはね、とっーても辛い思いをしてきたの。だから元気が出るように、笑顔で接してあげて。」
「うん!!わかった!!お兄さん元気出してね!」
この笑顔にロンは大いに救われたのだ。将来、何があってもこの笑顔だけは絶やしてはいけないと。それが自分を救ってくれた、優しい人達への恩返し、そして何よりも手を差し伸べてくれた恩人への彼なりの最大限の感謝を込めているのだった。–––––
「ロンたら、いつまでもそんな昔の話を持ち出して。少し恥ずかしくなるじゃない。」
「お嬢様やお父様、そして今は亡きお母様にはそれほどのものをもらったんです。感謝してもしきれないほどに。だからこそ、それを脅かすノブス公爵家のことは許せない。」
「そうね、私も同じよ。なんとしても公爵家の思惑は潰すわ。」
そう言うと、キャサリンは用意した魔鉱石に念じて力を受け入れた。
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