第12話 工房
僕達はランベルクの中心から離れて、街外れの辺鄙な所にある工房へ立ち寄った。
カランコロン
「どなたかいらっしゃいますか?」
僕の問いかけに答える者はいない。
「誰もいないのかなぁ。」
そう呟いた時だった。
「オイ坊主!待たせたな!ちょっと買いもん行っててな、悪かったなぁ。」
ドスの効いた声で後ろから現れたのは、いくつもの魔石を抱えた男であった。
「あのー、ここで防具が作れるってギルドの紹介で来たんですけど、、。」
「防具か、作りに来たってことは魔石でも持ってんのか?」
「魔水晶タートルの魔石があります。」
「なに、そこそこ良いじゃねぇか。1日待ってな。魔水晶タートルを素材にした防具ならなかなかなモンが出来上がるぞ!」
そう言って、工房主のアモンは作業場へと姿を消した。
「1日かかるのか。暇になっちゃったな。せっかくだしなんだか埃っぽいから、久々に綺麗にしてみようかな。」
そして、アモンに黙って僕は作業場以外の場所を生活魔法で綺麗さっぱり整えた。
「ライアス、今使った魔法は、、?」
アルが驚いたように問いかけてきた。
「え?生活魔法だよ。」
「その魔法は、無属性魔法の類だ。ライアス、君はずっと無属性魔法を無意識に使っていたのか、、。」
「みんな使えるんじゃないの?!」
「いや、少なくとも私は見たことがない。それに私は君と同じようにそれを使えるが、他の人にはきっと使えないだろうね。」
無属性魔法は既存の属性魔法に該当せず、使おうと思って使うには、適性が必要になるとアルは言った。
そんな話をしながら僕達は工房をあとにし、その日はそのまま宿に泊まることにした。
王都では、皆口に出さないが“大罪の魔法師”と似た風貌であることからか、どの宿も断られることが多少あった。
しかし、王都以外の出身地の者が営む宿や、学院側から指定された宿舎に関しては泊まることができた。
そして、ここまでの生活で、ありがたいことに王都以外では僕の見た目を気にする人が少ないということに気が付いた––––––
◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日、僕とアルは朝一番で工房へと赴いた。防具の受け取りがあるからだ。
「おはようございます、お邪魔しま〜す、、。」
「おう、来たか!もうちょっと待っとれ!すぐ持ってくぞ!!」
作業場から大きい声でアモンが言いながら、ドタドタさせながら入り口の方へと来た。
「なんっじゃこりゃあ!!!綺麗になっとるわい!それも塵ひとつないくらいピカピカじゃぞ!」
「ごめんなさい、昨日勝手に掃除をしちゃいました、、。」
「おい坊主、これはいったいどうやったんだ、、、?ありえないくらい綺麗だぞ。」
「えっと、こんな感じかな?」
そう言って僕はアモンの作業服に生活魔法を施した。攻撃には全くと言っていいほど繋がらないが、確かにそこには水や泡が存在した。そして風で乾かしたかのように、作業服は綺麗になった。
「お、おれは夢でも見てるのか、、、?」
アモンは常識では考えられない魔法を見た。
今までライアスの生活魔法を実際に目にした人はいなかった。
王都の依頼の際も、宿屋の女将は毎回不思議には思っていたが、かなり丁寧に掃除した結果なのだと思っていたのだ。
「あ、このことは一応内緒で、、。たまに掃除に来るようにするので。」
僕はアモンの反応を見て、あまり他の人に知れ渡るのが良くないかもと思ったので、口止めをしておいた。
「お、おう。初めて見る魔法だったからびっくりしちまったよ。あ、忘れとった!防具じゃ防具!ほい、これだ。」
アモンが渡してくれたのは、魔水晶タートルを模した、水晶が散りばめられた防具だった。一見重そうに見えるのだが、付けてみると意外にも快適であった。
「それと、これは余ったからサービスだ。あんまたいそうな品物じゃねえけどな。掃除してくれたお礼にでも受け取ってくれや。」
アモンは小盾を渡しながら照れくさそうに言った。
「ありがとうございます!これで次の依頼も頑張れます!」
「そう言ってくれると、おれも仕事をした甲斐があるってもんだな。」
アモンはなかなかに人情味に溢れる人で、僕の手持ちが150銀貨と少ししかなかったため、出世払いということでお代をかなり負けてくれたのだ。
代わりに次来た時には、適性価格での販売と掃除を頼まれることになった。
念願の防具とおまけで小盾に普通の剣をもらった僕達は、キャサリンの待つカレニアへと向かうことにした。
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