神と人と妖怪がとても身近に共生する、実力派の類稀なるハイファンタジー

まずは序章から第一章までの6万字をまるっと読んで頂きたい。カクヨムを訪れる活字中毒の皆様なら、きっとさらっと読み抜ける分量だと思う。
というのも、下記の紹介文に書こうと抜粋する単語の羅列では、この作品の良さを間違った方向に伝えかねないと思ったからだ。
まずは読んで欲しい。それに尽きる。

この作品の主人公は軍人である。人との戦い方も知らぬ子供達に、厳しく、戦いのなんたるかを教え、心より彼らの生還を祈る教官の立ち場の男だ。
どこか明治や大正浪漫を感じる色合いの中に、普通の日本ではありえない常識が根付いている。産土神という神の存在、のっぺらぼうや百目鬼のような妖怪、過去に起きた事件から危険度の格をつけられる村々……。
軍人である主人公の背を追いかけながら見るストーリーの端々に、作者の描く繊細で緻密かつ唯一無二の魅力にあふれた世界の美しさが垣間見える。軍記物の小説を読みながら重厚なハイファンタジーを味わっているように感じるのだ。
神と人と妖怪が共生している世界と簡単に記せども、この類稀な世界観を短い言葉で表せられるような表現が見つからない。だからまず6万字を読んで欲しい、というのが先に語った主な理由である。

勿論魅力は世界観だけではない。高い筆力もさることながら、文章の美しさ、先の気になる構成、そしてキャラクターがたまらない。
数話も読めば、主人公である高久を好きになることだろう。そしてきっと、もどかしく思う。
厳しくも優しい、他者から敬意や情を向けられる高久自身が自分をどこか蔑ろにする。その姿勢が苦しく、また読み手をひどく惹きつけるのだ。

第三章の四現在、物語は佳境に向かい始めている。
まだまだ物語に浸っていたいと思わせる、web小説らしからぬ実力派のこの作品を、どうかたくさんの人に読んで頂きたいと願ってやまない。

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