第30話 私のことはいいから!

 こうして、無事に難関突破し、2Fへとザッザッとやってきた。


 モンスターは思っていた通り、楽勝で倒せている。


 “フタタのつばさ”をまた集めようと思ったけど、運営の化身、巨大鶏がいた。“ドーア”の呪文が使えなくても、行ったことある町なら戻れるはずだ。……いや、いやでも応でも戻させる。


 そして、2F。MAPは全て頭に入っている。気をつけなきゃいけないのが一点だけある。

 目と鼻の先に、階段が見えるが、近道しようとすると、大きな穴が空いていて1Fに戻されるのだ。だから、面倒くさいけど、遠回りをする。それを伝えねば!


「テイオスさん」


「ん? どうしたココちゃん」


「あそこに階段が見えますが、実はこの先、道に大きな穴があるんです。だから、遠回りしましょう」


「おー、よく知ってんなー」


「た、旅行商ですのでっ」


「なるほどなー」


 ふいー、よかったー、何とか誤魔化せたー。って、ちょい待ちぃ! あんのクソ鶏、近道を真っ直ぐに行こうとしている!


 お前っ運営じゃろ! MAP把握しとれよ!


「エンウー! ストップ! その先は!」


「コケ?」


 巨大鶏、一歩前に出つつ、振り向く。足掠る。


「コ、コケェー!」


「ほら見ろ!」


 落ちる。落ちていく。FALLインビッグブラックチキン。


 走る。ぜぇぜぇ走っている。RUNイズぽっちゃり。何とか、巨大鶏の羽を掴む。が、


「きゃわー!」


 巨大故に重たく、踏ん張って支えられるわけがなく、FALLインぽっちゃりwithビッグブラックチキン。


 えっ、ゲームでは1Fに戻るだけだったよ!? でも、今、生身やん? え!? 死ぬ、の?


 ……嫌じゃー! まだ死にたくないよー! 推し活したいよー! 推しの筋肉を触りたいよー! 

 

 テイオスさんと、旅したいよー!


「テイオスさーん!」


「ココちゃん!」


 このまま落下していくしかないのかと思った時、推しが私の両足首を掴んだ。うん、これはこれで恥ずかしいな。


 しかし、伝説の武闘家の推しとはいえ、ぽっちゃり+巨大クソ鶏の重さは辛かろう。


 ああ、なんか、漫画でこういうシーンよくあったなー。手をがしぃ! と、掴んでさ。


 「私のことはいいから! 手を離して! このままじゃあなたも死んじゃう!」「いいや! 絶対離さない! 絶対に! それに! 死ぬ時は一緒だ!」(キュン)みたいな。


 そんな、ドラマチックなシーンじゃないけどね、今。私、頭から落ちようとし、足首を掴まれ、お尻を見られてますから。


 ま、でも、一応、言ってみようか。


「テイオスさん! 私のことはいいから! 手を離してください! このままじゃ! テイオスさんも死んじゃう!」


「何を言ってんだココちゃん! ここで手を離し、可愛い女の子を見捨てる奴なんざ、おとこじゃねぇ! 絶対に離さねぇし! 絶対に助けてやるからな!」


 ぎゅん。


「あい……」


 足首を掴む手に力が入り、推しの上腕二頭筋が盛り上がる。

 私の体は、前後に揺られる。


「いっ、く、ぞおぉ! おらぁ!」


「うわぁ!」


 揺らされ勢いで、下にいた巨大鶏、私、の順で、ぶんっ! と、円を描くように投げ出された。


「コケェー!」


 エンウーは推しの後ろに背中からどしーん! と落ち。


「よっ、と」


 私は、またもや推しにお姫様抱っこされた。


「姫さん救出! ってな」


「……みゃい」

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