第4話 相棒エンウー
私の後ろにいたのは、
「コケッ?」
大きなリュックを背に載せた、巨大な鶏だった。茶色の毛、大きな赤いトサカと
……推しに寄せたなー!?
「今日も美味そうな腿をしてんなー、エンウー」
「コケケー!」
「……」
わざとらしく、手足をバタつかせる、巨大鶏エンウー。
「はははっ、どんなに腹が減っていても、嬢ちゃんの相棒は食わねぇから安心しな」
「コケー……」
「……」
わざとらしく、ホッとしたように自分の胸を両翼で押さえる、巨大鶏エンウー。
……ちょっと待って。未来クエストに旅行商のNPCはいなかった。もちろん、こんな巨大鶏も。ということは、つまり。
「私をこっちに来させて、作ったのか……」
「どうした? ココちゃん」
「テイオスさん」
「ん?」
「ちょっと待っていてもらえますか? 後でちゃーんと、面白い品物を見せますので」
「おうっ、楽しみにしているなっ」
「ちょーっとあっちに行こうか、エンウー」
「コケッ、コケケッ」
大きく首を横に振る巨大鶏。
「……行ーくーよ。わーたーしーの、あーいーぼーう、エーンーウー」
巨大鶏の尾を掴み、道具屋の裏へ引っ張っていった。
「コケー!」
道具屋の裏までやって来ると、巨大鶏の尾を放した。
「さて、エンウー、いや、ウンエー」
「え、えへっ。やっぱりバレていた?」
「当たり前じゃ! ウンエーを逆にしただけでしょーが! 未来クエストといい、本当に捻りも何もないな! ま、いいよ。そんなことよりさぁ」
ウンエーの腹を掴んだ。
「人の心の中、見たな?」
「……コ、コケッ」
「てへっ、みたいに言うな! 人の心の傷をほじくり返しおってー、傷口に塩を塗るのがお上手ですこと! ……塩? ……あー。ところで、エンウー」
「コケ?」
「私ね」
「コケ」
「腿肉の塩焼きが大好物なんだっ」
「コッ」
「いー肉付きだよねー、一本、私に、ちょーだーい!」
「ケェー!」
ウンエーは翼をバタつかせ、道具屋の正面に逃げて行った。
「待てこらー!」
正面に戻ってくると。
「なっ……」
「おいおい、どうしてぇ。こんなに怯えてぇ、喧嘩はいけねぇーなぁ、ココちゃん」
ウンエーは、テイオスさんの後ろに隠れていた。
「……卑怯だぞー!」
推しを盾にするなんて!
「……酷いぞー!」
私がテイオスさんを愛しているのを、知っているくせに!
「……何で」
やっと推しに会えたのに、その推しから注意をされなきゃならないの。
「……どうして」
みんな、平気で傷口に塩を塗ってくるの。
『ココーココココッ』
『ギャハハッ』
「…………」
目の前に、小学生の私と、それを取り囲む男子たちの幻影が見え、俯いた。
ダメだ、いい歳なのに、涙が出てきた。隠している根暗が出てきてしまった。地味でヲタは隠していないけど、根暗は必死に隠していたのに。だからっ、傷をほじくり返してほしくなかったのにっ。
「……ココちゃんの相棒、エンウーや」
「コケ?」
「お前さん、どう見ても雄だろ」
「コケ」
「男なら男らしく」
「コ、コケコ?」
「俺の後ろに隠れてねぇで、でーんと堂々と構えろ。何よりも」
「コケ……」
「ココちゃんを泣かすんじゃねー!」
「コゲー!」
「え……」
「ココちゃん」というワードに顔を上げると、テイオスさんが重たいであろうウンエーを、背負い投げをした。ウンエーはどてーん! と、推しの前に落とされた。
「……」
かっこよすぎて、涙は一瞬で引っ込んだ。
「ココちゃん」
「はっ、はい!」
テイオスさんが近づいて来る。推しのことだ、ちゃんと私も叱るんだろうな。そう思い、ぎゅっと目を瞑った。
「ふえっ?」
逞しく、厚い、憧れの、胸板が顔にくっついている。抱かれたいキャラNo.1に、抱き締められているー!?
「何があったかは聞かないさ。それが、男ってもんだ」
「みゃい……」
「でも、長年の旅の相棒なんだ。ちゃーんと向き合って、仲直りしないとだぞ?」
頭をグーでコツンとされた。
ぎゅーからのコツン。ぎゅーコツ。……控え目に言って、無理!
「ココちゃん?」
「……ぷはぁ! はっ! すいませんっ、息をするのを忘れてました!」
「ぷっ、ハハハッ。とんでもねードジっ子だな!」
「——……」
これだ。
この笑顔だ。
私はこの笑顔のために、廃課金をしてきたんだ。
この笑顔が、消える。推しが、消える。
そんな事をさせてたまるか!
『えー……、ごほん。サ終は嫌か、ならば汝、有益なイベントを生産し、このアプリの良さを広めよ』
「……」
やってやる!
廃課金プレイヤー(未来クエストオンリー)
この『未来クエスト』を、誰よりもこよなく愛し(推しがいるから)! 運営のために、誰よりも課金をした(推しが笑うから)! その愛を持って、誰もが課金をしたくなるイベを生み出し! それに伴うガチャや、アイテムを考えてやろうではないか(推しに会いたいから)!
そして、アプリの良さを広めようではないかー(推しの良さは広めないけど)!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます