第12話 走るyoピヨピヨ

「さて、問題は」


 カリール城にどうやって行くかだ。

 ゲームでは2Dのフィールドを少し歩けば着いた。だが、実際はどうなんだ。


「テイオスさん」


「どうした、ココちゃん」


「カリール城って、ここから何キロですか?」


「確か30キロだ」


「30!?」


 体育の成績を赤点ギリギリで過ごした私では、道中でHPが尽きそうだ……。


「ふっふっふー。こんな時の僕だコケー」


 エンウーは口笛、いや、くちばしぶえを「プスー」と、ガス漏れしたように吹いた。


「ぶっは! ダッサ!」


「うるさいコケー!」


 笑っていると。


「……ん?」


 バタバタと大きな足音が聞こえた。音のする方を見ると、大きな鳥っぽいものがこちらに走ってくる。


 距離が縮まり、、が判明してきた。大きな黄色い鳥だ。二羽こちらに向かってくる。


 私たちの前に来ると。


「ピヨッ!」「ピヨッ!」


 びしっと右の翼で敬礼した。


「ひよ、こ……?」


 エンウーより一回り小さいひよこだった。


「僕の子分たちだコケー。左がピヨ三郎さぶろう


「ピヨッ」


 黄色くデカいモフモフひよこ。垂れ目なピヨ三郎が、ずいっと前に出た。


「右が、ピヨしん


「ピヨヨッ」


 モフひよこその二。糸目なピヨ之進もずいっと前に出た。

 そして。


「ピッヨッ!」「ピッヨッ!」


 右脚を上げ、下ろして揃えるのと同時に、右の翼で敬礼。


「……」


 ひよこだと、こうも違うのか。デカくて威圧感があるのに、これは。


「この子たちに乗って行けば、あっという間に」


「モッフー!」


 ピヨ三郎のお腹に抱きついた。あったかモフモフ。モフモフ、モフモフ……、プニッ。


「ピヨッ!?」


 お腹を摘むとピヨ三郎の体が跳ねた。


「ピヨ三郎」


「ピヨ?」


「私といい勝負のお腹だねー」


「ピヨー……」


 ピヨ三郎のお腹から離れた。


「テイオスさんがね、筋トレを教えてくれるって」


「ピヨヨ?」


「うん、そう。だからね、一緒に筋肉を付けよう! 筋トレ、始めよう!」


「ピヨー!」


「テイオスさんにっ、なるぞー!」


「ピヨピヨー!」


 ピヨ三郎と一緒に拳を高く上げた。ピヨ三郎は拳はないけどね。


「僕を無視するなコケー!」


 翼をバタつかせる鶏はスルーして。


「でも、ピヨ三郎」


「ピヨ?」


「私、結構重いよ? いくらピヨ三郎が大きくても、潰れちゃわないか心配だよ」


「ピヨヨッ、ピヨー!」


 ピヨ三郎は翼で私の脇腹を挟んだ。


「え……? 何す」


「ピッヨー!」


 そして、私を持ち上げた。


「えぇー!?」


 真正面から持ち上げられ、投げ飛ばされた私は、一回転しピヨ三郎の背中にすとんっと乗った。


「……見事なお手前で」


「ピッヨー」


 ピヨ三郎は嬉しそうに翼をパタパタさせた。

 本当に、ひよこだとこうも違うのか。ウザさがない。可愛い。


「おぉー! こりゃいいなー、ココちゃん」


 同じ高さから声が聞こえ、右を見た。推しがピヨ之進の背中に乗っていた。


「……」


 デカい糸目のひよこに、目で人を殺せそうなぐらい厳つい推しが乗っている。

 何たる可愛さ! 尊み秀吉!


「よーし! 行くかっ、カリール城に!」


「はいっ!」


 推しと並び、ビギニア村を出た。


「……僕を置いていくなコケー!」







 北東へ移動中。


 ピヨ三郎の背中は、もふもふで揺れても苦痛ではない。快適だ。


 問題はフィールドの景色だ。携帯越しに見る分にはいいが、リアルに来ると、2Dは。


「目が疲れる! 家用のブルーライトカット眼鏡を持ってくればよかったー! ちょっとエンウー!」


 いつの間にか先頭を走っていた、エンウーを見た。


「……何だコケ。僕を無視したことを謝るコケ?」


「謝る! ごめん! ソーリー!」


「仕方ないコケー、許してあげるコケー」


「ありがとう! そして、お願いがある!」


「コケー?」


「ドット絵は目に悪い! ゲームではいいよ! でも、リアルに来ると目に悪い!」


「わがままコケねー。コーケコッコー!」


 エンウーが高々と鳴くと。


「おー……」

 

 MMORPG並みの、超美麗グラフィック世界観へと進化した。


 けど、何回でも言おう。

 2Dには2Dの良さがある。


 でも、それはそれ、これはこれ。


「さっすがー、神ウン……、私の相棒エンウー!」


「コケコッ!」


 あっという間にカリール城に着きそうだ。息切れする不様な姿を、推しに見せる事なく済んでよかった。


「って、えぇ!?」


 思わず振り向いた。


 主人公アルマスが歩いていた。そう、追い越しちゃったー!

 これって、こっそり助ける旅じゃないのー!?


「エンウー! ストップストップー! 止まってー!」


 テッテレッレテテッレッテッテー。


 だぁー! このBGMのせいで私の声が届かなくなったー! しかも、これだってもろパクりだしー! 


「お願いだから止まってー! アルマスより先に着いちゃうー!」


 

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