NPC婚します〜Npc(推し)のために、Profitable(有益な)イベを生産せよと、Compulsion(強制)させられたので、推しに求婚します〜

冥沈導

第1部 伝説の始まり

第1章 始まりの村 ビギニア

第1話 サ終のお知らせ

「あーはいはい。今回は水武器ガチャね。はいスルー」


 平日の昼休み、栄養バーを片手に携帯を滑らせていた。


 私は、アラサー事務員。詳しい年齢は現実逃避したいので、黙秘します。

 どこにでもいる、地味ーなOL。そして、隠れていない雑食ヲタ。


 アニメ、マンガ、ゲーム、アニソン、キャラソン、シチュエーションCD、エトセトラ。何でも好きだ。


 BL、百合、エトセトラ、何でも来いだ。


 そんな私が今やっているのは、『未来クエスト』


 よくある、主人公が仲間を集い、姫を助け、未来のために魔王を倒す。至ってノーマルなRPGだ。

 ノーマルすぎて、周りではやっている人を見た事がない。アプリストアの評価とレビューも少なく、あるとしても星三ばかり。


 だが、それでいい。


 私だけが知っていればいい。


 推しの良さをー!


「今日もーまずはー、無料アイテムガチャー」 


 一日一回無料のよくあるガチャだ。道具屋アイコンをポチる。


『よぉ、今日も来たなっ』


「はいっ、今日も来ましたー」


 私の大きな独り言に、後輩、同僚、先輩方がこちらを見た。ああ、またか、と。

 ええ、またですとも! 何のために生きていると!?


 そう! 推しに! NPCの店主キャラに会うためじゃん!


 NPC、ノンプレイヤーキャラクター。プレイヤーが操作しないキャラクターのことだ。

 そう、プレイヤーが操作しない、私が操作、できない、キャラクター……。


 何で、何で……。


「あなたなNPCなんだー! こんなにイケオジなのにー!」


 周りから白い目、いや、白い視線を感じるがどうでもいい。栄養バーを食べながら私は仰け反った。


 そう、私の推しこと、イケオジNPC、テイオスさん。CVなし、一章が終わればガチャでしか会えない。新手のイジメか! と思ったね、一章を終えるのに何ヶ月かかったことか。


「……またポチれば、明日まで会えない。でも笑顔は見たい。心を込めて押すのよ! ポチィ!」


『いいのが出るといいな』


「キャー! もうあなたのその笑顔が、レジェンドレアです!」


 推しがニッと笑ってくれ、その興奮で栄養バーボッキリ。


 推しが店内をぐるぐる回る、ガチャの演出だ。そして、ある商品の所でピタッと止まった。


『今日はこいつをやろう! 傷薬だ! 安物で勘弁な』


「ううんっ、いいのっ。あなたが私の心の傷薬なのっ」


 今日もお昼の推し補給、完了っと。


「そういえば、ホーム画面に手紙アイコンあったな。赤いビックリマーク付きで」


 携帯をタップしてホーム画面に戻り、手紙アイコンを押した。タイトルに『運営からの重要なお知らせ』と出てきた。


「また緊急メンテかー? ほんと、緊急メンテ多いよねー、どのゲームも」


 タップしてお知らせを開いた。


『【重要】サービス終了のお知らせ』


「……は?」


 思わず二度見した。


『【重要】サービス終了のお知らせ。


 「未来クエスト」をご利用いただき、誠にありがとうございます。


 20◯◯年◯◯月◯◯日(金)より、サービスを開始させていただいておりました「未来クエスト」ですが、この度、20◯◯年◯◯月◯◯日(日)をもちまして、サービスの終了させていただく事となりました』


「はあぁ!?」


幾重見いくえみさん、うるさいよー」


『現在まで社内協議を進めてまいりましたが、今後、皆様に、よりご満足いただけるサービスの提供が困難であるという結論になりましたため、サービスの終了を決定いたしました』


「課金者が少ないからイベを作るのが難しいって!? いやいや! ここにいるでしょうよ! 廃課金者が!」


『今までご愛顧いただきましたお客様には、深くお礼を申し上げますとともに、このようなご案内となりましたことを、心よりお詫び申し上げます』


「詫びんでいいから終わるなー!」


『【サービス終了までのスケジュール】……』


「……終わる」


 アプリが。


「……終わる」


 私も。


 サ終ということは、もう推しに会えなくなる。生きる喜びがなくなる。


 ブラックとまではいかないけど、残業ばかりの職場。理不尽な仕事の押し付け、ヲタへの陰口、エトセトラ。


 それもこれも耐えられたのは、推しがいたから。


 食費は削り、コンビニおにぎりとサラダか、栄養バー。光熱費も節約し、暗闇でゲームをしていたから視力は低下していく一方! 服は、安物! 着回しがしやすいトップスは白でボトムスは黒ばかり! 化粧品は百均!


 それなのに! なーのーにー!


「……終わる」


 全てが。


 推しに会えないんじゃ携帯もいらない。

 どうせ、電話する友達もいない。メールは迷惑メールばかり。


「……こんなもの!」


 携帯を机に投げつけようとした。その時、


「は? へ? うわぁー!」


 携帯が光り、私は中に吸い込まれていった。

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