第6話 スライムが あらわれた!

 村長の家。


『村長「じつは この村には 古くから伝わるしょもつがあるんじゃ」』


 村長の家に来た主人公アルマス


『第一章、伝説の始まり』『第一話、勇者のまつえい』

 朝、主人公アルマスが起きると、村長に「準備ができたら、わしの家に来てくれ」と言われる。大切な話があると。

 そして、行くとボロっちい謎の古い書物を見せられる。


『村長「これには こう書かれてあるのじゃ りゅうせいぐんが降った夜 勇者はうまれた お前がうまれた日も きれいなりゅうせいぐんじゃった だからお前は この世界をすくった勇者のまつえいなのじゃ」』


 そして、村長フラグからの勇者発言。

 を、村長の家の入り口から覗いている私と推し+α。


「アルマス、勇者の末裔だったのか! ココちゃん知っていたか?」


「……」


 ええっ、もちろん! 実は私、ヌルゲーマーで完クリできたの、この未来クエストだけなんです! だからっ、ぜーんぶ知っています!

 プロローグは、その彼の祖先が魔王を封印する所から始まっていたんですよー。


 は、言わずに。


「……私も初耳です。びっくりですね」


 棒読み。


「だよなー」


『村長「お前のごせんぞ様が ふういんした魔王が どうやら復活したらしいのじゃ」』


「魔王が復活したってよ! 大変な事が起きちまったなっ」


「……ですね」


 棒読み。


『村長「じゃから 魔王をたおす旅にでるのじゃアルマスよ それがお前のさだめじゃ」』


「アルマス旅に出るってよ。唐突すぎるよなー」


「……ですよね」


 棒読み。


「いけねっ、アルマスが戻ってくる。店に戻ろうっ」


「そうしましょう。道具屋に誰もいないとびっくりしますから」


 この後、主人公アルマスが道具屋に寄るので。

 携帯の向こうにいた時の私は、あなたと離れ難く、道具をたんまり買うので。







 道具屋。


 テロリロリロリーンッ。


「……ん?」


 これって戦闘に入るBGMじゃ……。


『スライムが あらわれた!』


「ちょまっ……」


『スライムが あらわれた!』


「だからっ、ちょまっ……」


『スライムが あらわれた!』


「ちょえー!」


 だから! ちょっと待ってと言っているでしょー!

 えっ? 村の中にモンスター!? いや、確かにビギニア村から出れば、フィールドではスライムといっぱい出会うよ? でも、ストーリー上で村の中に入ってきた事はなかったよ!?


「……エンウーくん?」


「ココさん大変だ! スライムだコケ!」


「うん、大変だよ。ストーリーでは村の中にモンスターは入って来なかったよね?」


「コケ!」


「めっさ改変してるじゃん!」


「ココさんというバグが発生したから、歴史が改変しちゃったんだコケー」


「そっかー、なるほどねー」


 私というバグかー、そりゃ仕方ないねー。はっはっはー、なるほどねー……。……何が!?


「そういうとこやぞ! 私が運営を好きになれんのは!」


「ココさん、怖いコケー!」


「怖いコケー! じゃない! 勝手に喚んどいてバグ!? ふざけんな!」


「そうっ、ココさん、ふざけている場合じゃないコケー。やっつけないとコケー」


「ああっもうっ!」


 バグとしてバグを倒せってか!?

 でも待って。私、武器とか装備している? 格好は旅行商、けど、中身はヲタOL。まずいんじゃない? 

 と、普通なら慌てるだろう。だがしかし、私は旅行商ココなのである! ガチャをしなくても、きっと珍しい武器が!


 左側の空中にあるウィンドウに触れた。


 たたかう 


 ココ どうぐ


 傷薬 すごい傷薬 とてもすごい傷薬 めずらしい傷薬 とてもめずらしい傷薬


「……うん」


 そーでしたー! 私は道具屋の推しに卸しに来る行商でしたー。つまり、道具オンリーでしたー。


 あれー? でも、でもだよ? 課金武器ガチャはした事ないけど、お店で買える武器や防具を大事に使っていた。だから、普通に装備している、はず、なのに。あれー?


「……ウンエー」


「コケ?」


「私、武器や防具をお店で買っていたよね?」


「コケ」


「それらはどこに行ったのかなー?」


「ココさん道具屋ガチャばかりして、持ちきれなくなったから、売って軽くしてあげたんだコケー」


「うん、そっかー、ありがとー。……だーかーらー! そういうとこやぞ! 過疎る原因はぁ!」


「コケ?」


「運営の都合でプレイヤーを振り回す! 今だって数少ないプレイヤーは思っているはずだぞ! サ終なのか長期メンテなのか、どっちだー! ってね!」


「サ終という名の長期メンテコケー! ココさんが面白いイベを考えてくれなきゃ、終わるコケー!」


「責任重大過ぎでしょーが!」


「それにほらー、素手でも攻撃はできるコケ」


「知っていますとも! でもね!」


 左側、空中にあるウィンドウに触れ、コマンドを選択。


 たたかう


 ココ こうげき


 手が勝手に動いた。スライムに向けてパンチ。



『ココの こうげき!

 ミス! スライムAに ダメージを あたえらない!』


「ほら見ろー!」


「コケーコッコ!」


「笑うなー!」


『スライムAの こうげき!

 ココは 4のダメージをうけた!』


いったいなー! もうっ」


 ぷるるんっと、水色の可愛いスライムに体当たりをされた。実際にダメージを受けると、結構痛いね。


 そして、このスライムもね、パクリと言われる要因の一つよ。まんまアレよ! オリジナリティを出せぃ! って話よ! もっとリアルにどろっとべちゃっとしているとかさー。


 ま、それは後で直すとして。問題はー。


「あと私どれぐらいよー」


 ココ 


 H 1


「うん、詰んだね」


 つまり私、HPは5しかなかったわけね。


「雑魚っ!」


 そして、完全に詰んだね。幸いにも回復アイテムはいっぱいある。でも、限りはある。攻撃される→回復→攻撃される→道具尽きる→攻撃される→ココたちは ぜんめつした!


「ふっ、だが、慌てるべからず。こんな時の!」


 コマンド選択。


 にげる


『ココたちは にげだした!

 しかし まわりこまれてしまった!』


「……」


 にげる


『ココたちは にげだした!

 しかし まわりこまれてしまった!』


「……うん」


 推しの笑顔が見たいだけの、人生だった。

 私は天を仰いだ。すると。


「ココちゃんは下がってな」


 私の前に立つ推し。


「こういう時は、俺の出番だ」


 そして、振り向いてニッと笑った。


「——……」


 うん、もうしんどい。



 

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