第11話 犠牲者



今日、冒険者ギルドに訃報が届いた。


28人のクラスメイトのうち4人が亡くなった。


窪田、立嶋、冨里、笹川の4人だ。


俺は早々と追放されたから、彼らがどんなジョブやスキルを持っていたか解らない。


ただ『最初にもし死ぬのなら此奴ら』かなとは薄々思っていた。


彼らの守護霊は、碌でも無い存在ばかりだからだ。


彼らは今の時代には少なくなった『不良』だった。


彼らが引き寄せたからなのか、守護霊もとんでもない存在ばかりだった。殺人者、暴行魔、人でなし、そんな感じの霊だった。


立嶋の守護霊だけは少し真面で極道、所謂任侠の霊だったが、あとの三人の霊は碌でも無い存在ばかりだ


特に笹川の霊が酷く俺は無視を決め込んでいたが、同級生の女を見るたびに『いい尻しているな』『ああっ体があったらやりてぇなー』と声が聞こえてきていた。


事実、笹川は中学時代に暴行未遂事件を起こしている。


ただ全部霊が悪い訳でない。


『清く正しく』そんな生活をしていれば、守護霊は入れ替わる。


また人間の悪人がいつも悪い事をしていると限らないように、そういう霊であっても良い面を持っている場合もある。


逆に良い霊であっても、悪い面を持っている場合もある。


例えば『菅原道真』が有名だ。


日本の三代怨霊と言われる反面、天神様、学問の神様としても有名だ。


どちらの面が強く出るかは、憑かれた人間次第だ。


彼等4人は『楽観的で努力しないで暴力的で短絡的な人間』だった。


そして霊もそんな生き方を肯定していた。


異世界との相性は恐らく最悪だ。


『悪い事をして裁かれるか』『無謀な事をして死ぬ』それが異世界×彼等から思いつく俺の考えだ。



これは多分だが、異世界に来なければ彼らは普通に暮らせていた可能性が高い。


『警察』や『監視カメラ』がある世界では抑制されているから、多少暴力的な人間で済んだ可能性も高い。


俺は詳しい情報が欲しいのでサリーちゃんに声を掛けた。


「死んだ異世界人、4人の情報を貰えますか? 簡単なもので構わない」


「仁様は無料で大丈夫です! 国から、城から出たとは言え同郷の友人、情報はしっかり与えるようにと言われておりますから」


こう言うところが今一解らない。


最低限の事はしっかりしてくれるみたいだ。


「それじゃお願いする」


「はい、そう言われると思いご用意していましたよ、どうぞ!」


やはり、サリーちゃんはこういう所は優秀だな。


簡単なメモ書きにしてくれていた。


貰った情報を読んで見た。


一か月の訓練期間を2週間で自分達で、もう良いと断った。


その時点で既に騎士を相手に勝てる位は強かったみたいだな。


支度金を早々と手に入れ色に狂い、装備品や薬品を後回しにして女の奴隷を購入。


異世界人の立場を利用して、小さな犯罪を犯すも見逃され、最後は賞金目当てにオークと戦い、囲まれて殺された。


オークと戦った理由もお金だけではなく苗床として6人の女が連れて行かれたから、それ目当てという噂あり。


そんな感じだった。


「サリーちゃんでも構わないし、駆け出しの冒険者でも構わない、もう少し詳しい話を聞きたい」


「今の話についてなら、男の冒険者、それも子供じゃない方が良いでしょう? ゼペット様、銅貨3枚で少し情報提供を宜しいでしょうか?仁様はギルドに仲介料として銅貨1枚、そしてゼペット様に銅貨3枚お願いします! ゼペット様宜しいですか?」


「ああっ、今日はゆっくりしようと思っておったし構わぬよ」


すぐ傍の冒険者が了承してくれた。


俺が銅貨4枚をサリーちゃんに支払うと、サリーちゃんは銅貨3枚ゼペットに渡し、1枚を引き出しにしまった。




◆◆◆


「さて、どんな事を知りたいんだ」


「異世界人についてだ、4人で戦ってオークに負けたそうだが、オークとはそんなに強いのかな? それとも異世界人に負ける要素が何かあったのかな?」


「ああっ、あの素行が悪いと評判の4人の事だな! 正直言えば馬鹿なだけだな! 自分の力を過信して4人でオークの巣に乗り込んでいったんだぜ。オークなんて言っても巣に行けば上位種も居るんだ、オークアーチャーにオークナイト、オークジェネラル、そしてオークキングが…死人を悪く言いたくないがどう考えても自殺行為だろう?」


無双なんて流石に出来ないのか。


「異世界人でも無双は出来ないという事ですか?」


「いや、そうでもないぞ! 勇者、賢者、剣聖の三職なら恐らくは今の時点でも1人であの位の巣ならどうにかなるな、回復特化の聖女は難しいかも知れんがな、流石に4職以外じゃ今の時点じゃ上級職でもそんな事は出来ないだろな」


異世界人でもジョブによって差はある。


そういう事か?


「4人は何故、そんな馬鹿な事をしたんですかね?」


「良くは解らん、あくまで噂の範囲だが、仲間と揉めて城に居づらくなって出て行ったらしい。本来なら生活の基盤を固めそうなものだが、その金で女奴隷を買ってギャンブルに手をだしたそうだ。その状態で侯爵家の令嬢の馬車が襲われ、オークの巣に連れて行かれた情報を掴んだ」


「それで…無謀にもという事ですか?」


「案外ちゃんとした道筋はある。オークに襲われた巣に連れていかれたなら貴族の令嬢でも傷者だ。救ったとあれば婚姻の可能性も高いだろう。傷者の娘を娶ってくれるならと侯爵家がかなりの地位や財産を積むだろうから、それが目当てじゃないかとの噂がある。恐らくそう考えた可能性は高いだろう。あくまで噂だが」


「ただ、実力が伴わなかった、そう言う事ですか?」


「そういう事だな!」


「しかし、思ったより召喚された異世界人って強くないんですね?」


「馬鹿言うなよ! お前達がこの世界に来てまだ1か月も経ってないんだぜ! 他の奴らはまだ訓練中だ、幾ら異世界人でも、流石にこの短期間じゃジョブやスキルは使いこなせねーよ! 四職は最初から強いが、それでも本来の力が使えているわけじゃ無い。だがよ、普通の人間が何年も場合によっては何十年も掛かって身に着ける事を僅か半年から1年で身に着けてしまう。それがお前達だ、羨ましいぜ!」


「俺は無能だから違うよ」


「あっ、悪い!そうだった。まぁ、死んじまった4人は『まだジョブやスキルに限って言うならガキレベル』だから死んだ。そう言う事だ。

それでもよ、もし半年過ぎていたら恐らく4人が勝った筈だ、まぁ幾分か予想が入っているが」


「そうか、貴重な情報をありがとう」


「いや、この位は冒険者なら普通に知っている、こんな物で金まで貰えるんだ、寧ろこっちが礼を言う、ありがとうな」


聞きたい情報を聞いて満足だったが、あとでロゼに『私に聞けば無料なのに』と言われ、少し落ち込んだが、良く考えたら『俺の傍にいるからその情報は持ってない筈だ』ロゼは案外盛るタイプなんだな。


だが28名中、ちゃんとジョブを貰った奴が4人も死んだ。


討伐はやはり避けた方が良いだろうな。





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