第13話 罪の違い



俺は貴族の令嬢を抱えたまま、宿まで走って帰ってきた。


「ちょっとふざけないで! アンタ私になにかする気!」


大声で怒鳴らないだけまだ理性的なのかも知れない。


宿屋では声を出さないでくれたから、俺にやましい気が無いのは解ってくれていると思いたい。


宿屋の親父に「女を連れ込むのは構わんが、その汚いのはなぁ~」と言われてしまったので銀貨2枚を払い謝った。


「おおうっ! これだけ頂けるなら、こっちで掃除しておく…まぁ楽しめ」


令嬢は顔を赤くしているが黙ってくれている。


助かる。


俺には時間が無い。


早く部屋に戻らないとな。


◆◆◆


「なにか事情があるのかと思って黙っててあげたわ!事情を話しなさい!」


そろそろだ。


「悪い、お湯でも食事でも俺のツケで貰ってくれ! 俺はこれから大変な事になる…悪いな」


「ちょっと!」


「うがぁぁぁぁぁー―――っ!あああっああっあああー―――っ」


毛布を嚙みながら、俺は出来るだけ声をあげぬように悲鳴をあげた。


「な、な、な、何事?!」


驚くのも無理はない。


いきなり俺が震えだして叫びながら痙攣しているのだから。


だが、そんな余裕はない。


「スキルの副作用だ気にするな…ハァハァ恐らくハァハァ夜中には治まるから、うおぉぉぉぉぉぉぉー―――っ」


「大丈夫なのよ! 死んだりしないわよね?」


「ああっ、だが余裕はない…ハァハァあああああああー―――っぐふっ」


副作用は当たり前だ。


たかが人間が神の力を使うんだ。


解りやすく言うなら軽自動車にF1のエンジンを積んで時速300キロで走った。


それに近い。


体が悲鳴をあげるのは仕方が無い。


「うあわぁぁぁぁぁぁー――っ、あああっあがぁぁぁぁあがっああああっー-ハァハァ」


体中が引き千切られる様に痛い。


「本当に大丈夫なの? ねぇねぇねってば!死んだりしないわよね?」


令嬢が涙ぐんでいる。


なんだ、可愛い所もあるじゃないか。


「ハァハァ、死んだりハァハァしない、ただ苦痛はかなり続く…あぁぁぁぁぁぁっ、うがぁぁぁぁー-っ気にするな、あぁぁぁぁぁー――っ痛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー-っ! 寒いぃぃぃぃぃぃー-っ」


寒気が襲い、痛みが走る、手足に五寸釘を撃ち込まれ爪をはがされるような拷問に近い痛みが走る。


この痛みは神や仏に祈ってもやわらぐことは無い。


ただただ痛みが過ぎ去るのを待つだけだ。


◆◆◆


気がつくと夜中になっていた。


窓の外には月が出ていた。


気分が良い。


この拷問の様な痛みが過ぎ去った後は、何時も清々しい気持ちになる。


「月が綺麗だな」


令嬢は俺の傍で寝ていた。


体も服も汚いままだ。


仕方が無い、あとで謝って弁償しよう。


そのまま抱き上げベッドで寝かした。


凄い異臭がするが、流石に俺には寝ている女の子を裸にして体を拭く。


そんな事は恥ずかしくて出来ない。


それに見た感じは大人びて見えるが11~12歳の子。


そんな子に手を出すつもりは無い。


下に降りて宿主に事情を話した。


「スキルの反動か? 兄ちゃんは偉いな(呪い)カース系の反動があるようなスキルを使ってまで助けたんだ…誇って良い事だぜ! 」


カース系の反動スキル、そんな物があるのか。


「煩くして、すいませんでした」


「この宿は、安宿で泊っている人間も冒険者や傭兵も多い! 「毒にやられたか、大怪我したんだな」で済む。その代わり、逆に煩い時も耳栓でもして寝る事になる! お互い様だ」


「ありがとうございます!」


俺は余分にお金を払い、食事とたらいに2杯の湯を貰った。


あの分じゃまだ起きないだろうが、用意はしてあげた方が良いだろう。


部屋に戻ると、凄く臭かった。


今日は我慢して寝るしか無いな。


俺はもう一度彼女の寝顔を見てから、床で横になった。


そう言えば、まだ名前も聞いて無かった。


それに『彼女達もどうにかしてあげない』といけない。


俺は霊能者だ、あの時の俺は彼女達の悲痛な声も聞こえていた。


だが、救う時間が無かったから見て見ぬふりをした。


霊能者の俺にとっては『死人も人と同じだ』


様子を見に行くべきだ。


彼女は、まだ眠っている。


あんな環境にいたんだ、疲れきっているのだろう。


まだ、朝まで時間はある。


今から行ってみるか。


◆◆◆


俺は再びオークの巣に来ている。


様子を見るなら、夜の方が都合が良い。


オークの巣を見た瞬間、流石の俺も驚きが隠せない。


『屠畜場』


その言葉が頭に浮かんだ。


惨たらしく殺されたオークの死体があちこちに転がっていた。


不味いな。


幾ら彼女達が惨たらしい死に方をしたからと言って、こんな残酷な事をしたら、地獄行きになりかねない。


実際のあの世については神も仏も口を噤み教えてくれない。


だが、神や仏、霊がいる以上は『ある』と考えた方が良いだろう。


仏教の逸話には蜘蛛を殺しただけで『罪』そんな話もある。


これじゃ…地獄に落とされるかもしれない。


俺は彼女達に酷い事をした。


許してはくれぬだろうが、せめて謝りたい。


そう思い、奥へと向かっていった。


『あれ、貴方は不思議な力を持った人』


『貴方のおかげで此処から出られそうなの』


可笑しい…


彼女達の顔が凄く穏やかだ。


『驚いているな?!私が説明しよう!私の名前はアマンダだ! 君が何をしてくれたか解らないが、この通り体から抜け出す事が出来、オークを倒す事が出来た、礼を言うぞ!』


『確かに『恨みは晴らせた』かも知れない、だがそのせいで貴方達は罪を背負ってしまった、本当にごめんなさい』



恨みは晴らせたかも知れないが、これから地獄に行くんだ。


謝っても謝りきれない。


『どうして、謝るんだ!事情を話して欲しい』


俺は知っている事を話した。


『あはははっ君は異世界人なんだ』


『馬鹿ね』


『心配はいらないわ』


何故か笑っている。


何故だ?


「何故笑えるのですか?これから貴方達は、罪を償う為に地獄の様な苦しみを」


『それは無い、我々は死後の世界は女神様の世界に行ける事は確定している』


『そうよ! だって魔物を殺したんだもの、当たり前じゃない?』


そうか、魔族と女神が戦っている世界。


魔物を殺す事が罪になるわけが無い。


良く考えれば、魔族を殺す為の力を授けるのが女神イシュタス。


そう考えたらこれは善行だ。


『それなら良かった』


『私達は貴方にもう一度会う為に此処に居ただけよ』


『もうそれも限界が近くなってきたけどね、ほら洞窟なのに光が降り注いできたでしょう』


確かに、神々しい光が降り注いできている。


『そのようですね、良かった』


女神イシュタス、俺にとっては碌でも無い女神だと思ったが、案外ちゃんと女神らしい事しているんだな。


『村娘の私がオークを狩れたんですよ! ありがとう』


『家族の仇が討てた、ありがとうお兄ちゃん!』


『騎士として不甲斐なく死んだ、私がオークキングを殺してやれた、礼を言うよ』


『私も礼を言うわ、そうだオークの討伐証明は鼻だからね、全部持っていくと良いよ』


『そうね、宝物は討伐した人の物だから、私達には必要ないから、全部君にあげよう、皆も良いよな!』


『うん、賛成』


『『『『『『『『『『うんあげるよ』』』』』』』』』』』


皆は俺に礼を言って光の中に消えていった。


さてと『南無~』俺はオーク達にも一応は手を合わせた。


この世界で魔物の霊にはまだ会った事が無い。


この世界がどんな世界か俺には解らない。


前に居た世界では『霊に殺された者』は酷い目にあっている。


呪い殺された人間や悪霊に殺された人間の霊は、地縛霊等、恨みが籠り成仏できないと言われていた。碌でも無い事になるのは間違いない。


見た感じ、オークの霊は存在しないようだ。


この辺りは、俺みたいな霊能者じゃ恐らく生涯知る事は出来ないだろうな。


霊が居ないなら『これはただの死体』オークから鼻を切り取り、終わると倉庫にある物を片端から収納魔法を使いしまい込んだ。


案外『翻訳』と『収納』だけしか貰えなかったけど『収納』便利だな。



これで当分の生活には困らない。


あとは、令嬢を侯爵家に送っていけば。


きっと謝礼金が貰えるはずだ。


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