第12話 令嬢救出
四人の死は同級生ではあるが、虐めなどをしていたし、俺も被害者の一人だったからどうでも良い。
だが、問題は貴族の令嬢だ。
その後はどうなったのだろうか?
「サリーちゃん、それで聞きたいんだけど、貴族の令嬢は?」
「まだ、そのままですね。流石に、オークキングが居る可能性の巣には手が出せないようですね、引き受け手もいません、冒険者ギルドで受けるならA級複数人でようやく出来るかどうかの話です。それに恐らくはもう手遅れで助け出しても、真面な人生は送れない可能性が高いと思われます。聞いてどうかされるのですか? 仁様には何も出来ないでしょう?」
見殺し。
そういう事か。
冒険者ギルドは営利団体、誰かが『お金を払わなければ』動かない。
ましてA級が数人必要な状態なら、一つのギルドじゃ無理だ。
実際にこのギルドにはA級は2人しか居ない。
だが、問題は俺の中で起きた。
興味半分でこんな話を聞くのじゃ無かった。
本物でなく眷属、そして力はあまり強くはない。
だが、俺には『神』や『仏』が宿っている。
異世界に来た俺には積極的に力を貸してはくれなかったが『オークに捕らわれた貴族の令嬢』に同情したようだ。
頭の中で
『何故助けに行かない』
『我が守護神として憑いておるのだ、お前なら出来る』
無責任にそう伝えてくる。
ここで重要なのは『無責任』という事だ。
守護神は自分が本物だと思って俺に進言してくる。
実際は、眷属、そして眷属の中でも『どれ程の力なのか未知数』
事実、俺の守護神の中に居る不動明王は事故で死に掛けの猫に憑いていた。
もし、この不動明王が『オリジナル』なら、猫は事故で死ぬ事は無かったはずだ。
もし、不動明王のオリジナルが守護する存在が簡単に死ぬなら、恐ろしすぎる。
つまり、本当に守って貰えるかは『その時』まで解らない。
守ってくれたのに力及ばず、死んでしまう事も無いとは言えない。
凄くリスキーな話だ。
『聞くんじゃ無かった』
それでも俺は行かないという選択は出来ない。
守護神や守護霊が俺の心を読み取り、騒ぎ出す。
『助けろ』と。
この世界で守護霊や守護神を失ったら、俺は生きていけない。
助けに行くしかない。
「俺に何が出来るか解らない、だが行動は起こす」
恰好つけてサリーちゃんにそう言った俺の足は小鹿の様に震えていた。
◆◆◆
俺は今、件のオークの巣の近くに来ている。
薬草を少し買ったが装備はそのまま。
流石に、武器は高額だから買える余裕はなかった。
だが、やるしかない。
正直言わせて貰えれば、これは良い賭けじゃない。
助けに入る俺の命が危ないし、運よく辿り着いても、死んでいる可能性もあれば『死んでいた方が良かった』そこまで壊されている可能性もある。
降霊術奥義『神降ろし』
これは俺の霊能力の中でも一番強力な技だ。
だが、使えるのはオリジナルではなく、自分を守護してくれている守護神の力だ。
降ろしたのは『韋駄天』
更に祈祷をし『不動明王』の加護を貰った。
今の俺にはこれが限界だ。
二柱の仏の力を借りているんだ、これで無理ならどうしようもないな。
気分は赤い奴、日本にも海外にも凄く速い奴いるじゃん。
あの世界だ。
そしてそのまま巣に突っ込んだ。
スピードは…ライトノベルの世界じゃない。
あんな、相手が止まって見えるわけが無い。
韋駄天の力があっても体は俺がベースだ。
限界はある。
「うがぁぁぁぁー-」
「がるるるるぅぅぅー――っ」
沢山のオークが吠えている。
只の高校生が『化け物の巣』に突っ込んでいる、普通は恐怖があるだろう。
だが、俺は死の恐怖はあるがそれ以上は無い。
霊と交流があるという事は怖い霊とも知り合う事がある。
怖い思いは何回もした。
そして今の俺は『不動明王』の加護を受けている。
眷属で弱い存在とはいえ、お守り代わりにはなるだろう。
不動明王は魔除けの仏だ。
恐らく、襲われない。
だが、あくまで魔除け。
もし俺から戦闘を仕掛けたら、俺には殺される未来しかない。
巣とはいうがかなり広い。
オークと会う度にオークは威嚇してくる。
俺は刺激をしないように横を抜けていく。
恐らく、倉庫の様な場所に居る。
そう踏んで歩き回った。
異臭が強くなってきた。
男なら嗅ぎなれた栗の花の匂いがむせる様に匂う。
多分、この先だ。
残酷な光景を見慣れた俺でも眉をしかめる位酷い状態だ。
何人もの女の死体が転がっていた。
その表情は苦悶の顔をしており恨みが顔に出ていた。
俺の中の神や仏が騒ぎ始めるが無理だ。
今の俺に複数のオークと戦う力は無い。
吐き気とむせるのを我慢して進んだ。
その先に彼女は居た。
体中汚物まみれでオークの臭いがするが、服はしっかり着ていた。
周りに死体が2~3転がっているが、彼女は無事なようだ。
髪の色は異世界ならではのピンク。
顔立ちは整っていて此処迄綺麗な女性は見たことが無い。
背が低く、胸は…無いな。
見た感じ子供に見えなくも無いが、子供だとしたら大人っぽい美少女だ。
「あんた、誰?」
こんな状況でも凛としている。
「俺の名前は仁、君を助けに来た。だが、正直に言えば助かる率は半々だ…どうする?」
女がオークにとってどれ位大切かによる。
魔除けはあくまで魔除け。
果たして自分の大切な者を奪う相手まで抑えてくれるか解らない。
「馬鹿なの? 此処に居たら苗床にされて死ぬだけだわ! 分が悪くても乗るしかないじゃない!」
なんで助けに来たのに、こんな偉そうに不機嫌な顔をされないといけないんだ。
まぁ泣き叫ばれるより良い。
「それじゃ、悪いな、乗り心地は保証しない」
俺は彼女をお姫様抱っこした。
「構わないわ」
「うぷっ、うぇ」
「仕方ないじゃない」
恐らくはマーキングだろう、オークの匂いや栗の花を酷くした匂いがする。
豚小屋の数倍以上臭い匂いが彼女からしてきて吐きそうになった。
俺は彼女を抱きながら走りだした。
「「「「「「ぶっぶもおおおおおおおおー――っ」」」」」」
ヤバいどうやら、それなりに苗床にする女は大切なようだ。
さっきまでと違い殺気だっている。
俺は全速力で逃げようと走り抜けるが、多勢に大勢。
不味いな。
「アンタ戦えないの?」
「多少ならどうにかなるが、この数は無理だ」
「そう? 「まぁ助けにきてくれた!」それは恩にきるわ」
ごめんなさい。
心から謝った。
「ごめんなさい、貴方達の力を借りる。この地に眠る霊よ、黒木仁の名に置いて解き放つ、その怨念を存分に晴らせ!」
今迄死体だった女から霊が抜け出した。
「「「「「「ぐもおおおおおおおー―――――っ」」」」」
オークの豚顔が恐怖に歪んだのが解った。
そのまま霊は悪霊の様にオークに襲い掛かった。
霊になったら相手が悪人であっても傷つければ地獄行きだ。
だから、これはやってはいけない事だ。
だが、相手はオーク、人ではないこの場合はどうなるのか。
霊に襲い掛かられたオークは恐怖からか奥へ逃げ出した。
その隙にまんまと俺は無事に逃げ出す事が出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます