第15話 奴隷ナオ



レイスと一緒にトンプソン侯爵家に訪れた。


案外近いのな。


攫われたのが近い場所じゃなければ、クラスメイトや俺が駆け付けられる訳ない。


しかし、それにしてもこの家は大きな。


前の世界の豪邸すら霞んで見える。


これに比べたらタワマンですらウサギ小屋だ。


「でかいな!」


「凄いでしょう! でも此処は貴族街にある王都の別宅なのよ! 領地にある本宅はそれこそ、お城にみたいに大きいんだから!まぁ庶民にはこれでも大きく見えるわよね!」


こんな近くなら昨日俺の宿などに泊まらずに此処に連れてくれば良かった。


「これで別宅なのか?」


「そうね! ほら行くわよ!」


そう言いながらレイス、自慢げに俺の前を歩いて行った。


これ程の屋敷だ、きっと謝礼金も沢山貰えそうだ。


◆◆◆


「帰ったわよ!」


「レレレ…レイスお嬢様?!」


「お嬢様、おかえりになられたのですか?」


騎士とメイドとレイスが話しているが、何やら様子が可笑しい。


普通に考えたら行方不明、それも『死んでいたかも知れない令嬢』が帰って来たんだ…喜ぶ場面だ。


『霊視』


やはり、可笑しい。


二人に憑いている霊が戸惑っている。


喜んでいる様子は無い。


「私が帰ってきちゃいけない訳?」


「そんな事はありません! 心配していたのです!」


「私、すぐに侯爵様に伝えてきますね」


「急いで!こんな惨めな服、すぐに着替えたいわ」


「急ぎます」


俺はレイスについて屋敷に入っていった。


屋敷に入るとすぐに執事が張り付くようについた。


「お客様はこちらでお待ちください」


「それじゃ仁! あとでね! 私を助けたんだから、謝礼金は楽しみにしていなさい! 場合によっては爵位位貰えるわ」


「ああっ楽しみにしている」


だが、どうも様子が可笑しい。


レイスの傍のメイドが目を伏せた気がする。


俺の気のせいか?


◆◆◆


様子が可笑しい。


この部屋で待たされてから紅茶と茶菓子が出てきたが…


その後は放置状態だ。


幾ら何でも、もう2時間位はたった気がする。


何か不味い事が起きたのか?


俺がそう考えた時にさっきの執事が現れた。


「お客様、これに血を少し頂けますか?」


そう言って執事が俺にナイフと小皿を差し出してきた。


「これは?」


「ご主人様が今回の件を大変恩にきておりまして、褒賞を出すそうです、その褒賞に必要な物です」


此処は異世界だ。


相手は貴族、なにか褒賞を貰うのに作法があるのだろうか?


俺はナイフで指を傷つけて血を小皿に垂らして執事に渡した。


「これで良いか?」


「はい結構でございます」


どうも様子が可笑しいが侯爵家から逃げるのは不味いだろう。


このまま様子を見るしかないな。


「お客様侯爵様の準備が出来ました、こちらにどうぞ!」


「はい」


今度はメイドが迎えに来たのでその後に続いた。


少し歩くとかなり立派なドアの前で立ち止まった。


「こちらでご主人様がお待ちです! どうぞおはいり下さい」


謁見室というのか?


大きな部屋の中央に立派なイスがあり、其処には恰幅の良い男性が座っていた。


この場合はどうすれば良いんだ?


レイスが居れば聞けるのに…


仕方ない。


この世界での礼儀は解らないから、しっている限りの礼を尽くすしかない。


侯爵と思われる男性の前で跪いた。



「私は異世界人です。その為この世界の礼儀は知りません。この方法は」


「ほう~異世界人とな! ならば気にする必要は無い。知らない事を咎めるつもりは無い、今のままで顔だけこちらに向ければ良い」


「ありがとうございます!」


「いや、良い当家のメイドが世話になったのだ、気にする必要は無い」


メイド?


俺が助けたのは令嬢レイスだ。


「あの俺が助けたのは」


「それを言う必要は無い! お前が助けてくれたメイドは虚言壁があり器量は良いのだが困っていたのだ! 娘のレイスはオークに嬲り殺され死んだのだ、それなのにおめおめ帰ってきた馬鹿な奉公人だ」


そんな訳はない。


身に着けている物は高価だった。


しかも立ち居振る舞いは立派だった。


あれがメイドのわけが無い。


「…そうですか」


「ああっそうだ、所でお前に恋人はいるのか?」


「お恥ずかしい話、おりません」


それが一体どうしたというんだ。


「そうか、それでは女性の名前で好きな名前はあるか?」


何か意味があるのか?


「そうですね、美羽、亜美、奈央、その辺りが子供の頃好きだった子の名前ですかね?あと陽子とか?」


「ほう、異世界人とは結構同じ名前が多いのだな! ミウもアミもヨーコも過去のこの世界の偉人に居る名前だ。ナオは確か聞いたことは無いな…それで良い」


何を言っているんだ。


「お前にやる褒賞が決まった…そのまま少し待たれるが良い」


普通なら金貨が入った袋でもくれて終わりじゃ無いのか?


◆◆◆


「待たせたな!」


暫く待つとトンプソン侯爵がレイスを連れてきた。


可笑しいぞ、服を着替えてない。


それにさっきからレイスの事を娘ではなくメイドと言っている。


「お前に渡す報奨を決めた、メイド1人助けた褒賞としては破格だぞ! 喜べこの女を奴隷にしてお前にやろう、名前はナオだ!もうお前の名で奴隷紋も刻んである。部屋を貸してやるから暫く話したら立ち去るが良い」


そう言うと侯爵は俺を下がらせられた。


レイスを見ると泣いていた。



何があったのか当人に聞くしかないな。


◆◆◆


さっきと違いみすぼらしい部屋に二人している。


沈黙の時間が続いた。


「あはははっ!私捨てられちゃったのよ!」


「何があったんだ」


「オークに捕らわれていた女は娘じゃないって…ひくっ私だって好きで捕らわれたわけじゃ無いのに…何故生きていたって言われたの!確かにそうよね…実際は兎も角、傷者だもん、縁談相手なんて現れないから、貴族としての価値はないもの」


そういう物なのか?


親子の情は無いのかよ。


「そうか…それでお前は良いのかよ」


「何がよ!」


「お前、俺の奴隷になったんだぞ?」


「仕方ないわ! アンタの奴隷になってナオという名前で生きるか、レイスとして潔く自害するか…その二つから選べと言われたわ! それに私使用人にも嫌われていたみたいで誰も庇ってくれないの! 皆、私を見て笑っていたわ! 奴隷紋を刻まれる私をね!」


「仕方が無いな、俺も同じようなものだ」


追い出された。


そういう意味で俺も此奴と一緒だ。


「アンタもそうなの?」


「無能だから、城から追い出された、仕方が無いもう奴隷として登録されたみたいだから、俺が妹として面倒みてやるよ!」


「妹!アンタ何歳よ!」


「17歳だけど?」


なんで此奴機嫌が悪くなったんだ?


「へぇ~17歳ね? それでアンタ私が何歳だと思っているのかな?」


「11歳?もしくは12歳位」


「アンタ馬鹿なの? その目腐っているのかしら?」


「まさか10歳なのか?痛っ」


いきなり蹴りやがった。


「16歳よ!16歳! 何処見て子供扱いしたのかしら? 言って見なさいよ!」


背というべきか胸と言うべきか。


賭けだな。


「背が小さいから」


「そう、それなら良いわ」


多分から元気だ。


だが少しは元気が出たようだな。



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