第16話 奴隷じゃないんじゃないか?



俺は一体何をしてしまったんだ?


金貨35枚と銀貨4枚、日本円にして約350万円。


1人なら1年、倹約すれば2年暮らせるお金が手に入った。


だが、奴隷を抱えたら2人分になる。


しかもどう考えても倹約するタイプじゃない。


多分、半年位で蓄えも無くなるだろう。


しかも、これ奴隷なのか?


「仁、お腹が空いたわ!」


「ナオ、お前、何か出来ることは無いのか?」


「貴族の礼儀作法はわかるわ」


そんな物は生きるのに役に立たない。


今の所は意味がない。


「いや、そう言うのじゃ無くて、家事とか戦えたりしないよな?」


「なに? 私が出来ると思うの!」


「出来る訳ないよな」


「そうよ!私はお嬢様だったから、家事なんてした事無いわ!それに戦えるなら、あんな所で捕らわれていると思う?」


「思わない」


「正解よ! そう言う訳だから早く朝食を用意なさい!」


これは奴隷じゃ無くて主人じゃないか?


俺が手に入れたのは奴隷なんかじゃなく『ご主人様』だ。


確かに悔しいが凄い美少女だよ?


背が低くて胸が無いのを除けば整った顔に綺麗なピンクブロンド?と言えば良いのか輝くピンクの髪スレンダーが好きなら、これ以上ない。


観賞用というなら最高かも知れない。


だが…


「何をしているのかしら? 早く食事を用意しなさい!あと、新しい服も欲しいわね!あと部屋もせめてお風呂がついた部屋でベッドが二つある部屋にしなさい! 良いわね?」


良くツンデレなんて言葉があるが、そのツンデレからデレを無くした感じがする。


「解ったよ! とりあえず飯を買ってくる…だが俺は有能でないから貴族の時の様な生活は期待しないでくれ!」


流石にそれは無理だ。


「そこ迄は期待してないわ!」


「そう、それは良かった」


一人の方が楽だったな。


◆◆◆


二人での食事が終わり、いまは紅茶モドキを飲んでいる。


宿屋の物だから、そんなに高級な物じゃない。


ナオに文句を言われるかと思ったが、ナオは文句を言わなかった。


侯爵といえば大貴族だ。


その令嬢がたった数日で全てを失った。


そう考えたら、我慢しているのかもな。


今現在のナオには守護霊が憑いて無い。


恐らくはオークに監禁された時に、諦めて離れて行った可能性がある。



どんな霊が憑いていたかは解らない。


だがレイスじゃなかったナオが死ぬ前に離れていった事から、かなり薄情な奴だ。


さてと…


『ロゼ、今この子には守護霊が憑いていない!もしよければ憑いてやってくれないか?』


『そうね』


そういうとロゼは品定めするようにナオを見回していた。


「何事? アンタ私になにかしているの!」


「ああっちょっとしたおまじないだよ! まぁ気休め程度だけど」


「そう?何をしているのか解らないけど!アンタは信頼しているから任せるわ!」


ロゼは勇者だから憑いて貰って損はない筈だ。


最も、スキルが頼りのこの世界じゃナオに憑いても何がプラスになるか解らない。


それでも守護霊不在よりは良い筈だ。


『良いわ、憑いてあげるわ』


そう言うとロゼはナオの体に入っていった。


「体が少し熱いわ! なんだか解らないけど気分が良いわね!」


「まぁ、おまじないみたいな物だよ!気休め程度だけどね」


「そう、解ったわ」


「それじゃ、暫く休んだら買い物に行こうか?ただ俺は平民でお金はそこ迄無いから節約で頼む」


「良いわ、お手柔らかにしてあげる!もう貴族じゃないから安い服で良いわ! ただ、まだ少し臭いから香水だけは買ってね!」


「解ったよ」


お金がかなり飛ぶのを覚悟したが、意外にもにもナオは高額な物を買うような事はしなかった。


庶民的な物ばかりだ。


「意外だな、てっきり俺は、もっと」


「アンタ馬鹿なの? 幾ら私でも自分が貴族でも平民でも無い『奴隷』になった事位理解しているわ!」


「そうか」


「そうよ!」


その割には辛辣に喋るけどな。


サリーちゃんと言いナオと言い、俺の周りは口が悪い女ばかりだな。


◆◆◆


俺はトンプソン侯爵に腹が立っていた。


だから、霊能者なりの嫌がらせをしてきた。


トンプソン侯爵に憑いている守護霊を引きはがして除霊をして置いた。


これで何が起こるかは解らない。


当人が優秀であれば、霊の力なんて関係ない。


だがプラスαの力が無くなった事は確かだ。


何が起きるかは俺にも解らないな。


霊が憑いていると、幾分かだが人生にプラスになる。


その分だけマイナスにはなるだろう。








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