第5話 人生相談スタート




「珍しいですね、ジョブが無いのに魔法やスキルに類似した事が出来るなんて」


この悪舌な話し方をする受付嬢はサリーさん。


金髪のショートカットの童顔の可愛らしい女の子だ。


今迄名前も知らなかったのは、自己紹介してくれなかったからだ。


無能=真面に稼げない。


だから、関わらない人物だと思って名前すら教えてくれなかった、そんな所だな。


『冷たい』そう思うが、冒険者ギルドは営利組織と考えたら仕方ないのかも知れない。


リチャードからの推薦で一つだけランクが上がってEになった。


塚原卜伝は日本では剣聖。


伝説ではかの有名な宮本武蔵ですら敵わなかった。


そんな伝説がある。


本人曰く《会った事も無い、嘘じゃ》と言っているが。


未熟とはいえ、その卜伝の技をぶち込んで怪我一つ負わせられない。


そう考えたら、冒険者一本で食べていくのは難しいな。


「転移する前の世界ではそれなりに鍛えていたからね。でもA級とはいえリチャードさんに怪我一つ負わせられなかったから、サリーさんの言う通りかも知れないね」


サリーさんは驚いた表情をした。


なんでだ?


「ハァ~かなりずれていますね…リチャードさんからオーク位なら狩れると言われたのでしょう? オークが狩れるなら冒険者として生きていける。そういう事ですよ? 冒険者として平均的な力以上と言われたのですからね! 無能の癖に贅沢です! ジョブ持ちで剣士の方並みですから! A級やB級は冒険者としては一流です!殆どの冒険者はC級まで上がれれば良い方なんですよ!」


「…そうなんだ」


「はい、だから貴方は恵まれた方だと思います、頑張る頑張らないは大人なんだから自分で決めるしかないです」


この世界の成人は15歳らしいから、もう俺は大人だな。


「それでついでに教えて欲しいんだけど、占いや人生相談をする時に場所を借りる事は出来るの?」


「出来ますよ、テーブル1つで一日銅貨5枚(5000円)です。ヒーラー(回復師)以外ならそれでOKです」


「ヒーラーは駄目なんだ」


「はい、冒険者ギルドでヒーラーをやれば確実に儲かるので取り合いで大変な事になったので遠慮頂いているんです」


確かに怪我をするのが当たり前の仕事だもんな。


「お金を取らなくても銅貨5枚掛かるの?」


「お金を取らないなら場所代は要りませんよ! ただやる場合は必ずギルド職員に声を掛けて下さいね」


案外、この辺りは良心的かも知れない。


俺はサリーさんにお礼を言ってギルドを後にした。


◆◆◆


武器が無ければ狩りは出来ない。


武器屋に来てみたけど『高いな』


真面な剣は安くても金貨5枚はする。


樽の中にあるジャンク品みたいな剣も金貨1枚は確実にしていた。


こういう所にきっと素晴らしい剣とか喋る剣とかが…無いな。


そうなると、貰った小剣で当分はしのがないといけないのか。


◆◆◆


取り敢えず魔物を見に草原に出た。


草原を選んだのには理由がある。


此処なら逃げる事が簡単だからだ。


この辺りに出るのはゴブリンとオークだ。


つまり『俺でも狩れる存在』だ。


暫く様子を見ていると子供の様な大きさの醜い魔物が現れた。


多分、あれがゴブリンだ。


見た感じは小学生位だな。


あれなら狩れる。


俺は気配を消してゆっくりと近づき後ろから刺殺した。


「ぎやぁぁぁぁぁー――っ」


悲鳴と共に血しぶきを浴びた。


ゴブリンはよれよれと数歩歩いて力尽きて死んだ。


俺は討伐の証しであるゴブリンの左耳を斬り落とした。


ゴブリンの討伐費用は銅貨6枚(6000円)。


割が合わないな。


ゴブリンと言えど恐らく小学5年生位の力はある。


しかも相手はこちらを殺しにくるんだ。


もし、体調が悪かったら、油断していたら、殺される可能性もある。


小学生と殺し合いをして6000円。


絶対に安すぎる。


不意を突けば殺せるが、逆に不意を突かれれば怪我するし場合によっては死ぬ。


そのまま様子を見てオークを探した。


探す事1時間位、オークは見つかった。


遠目に見たそいつは豚の頭を持つ大男だった。


多分、俺の居た世界のプロレスラーより更に大きい。


ギルドでの賞金はこれを狩っても銀貨1枚(1万円)割が合わないな。


俺は狩らないで街に引き返した。


やってられない。


毎日あんなのを狩って日銭を稼ぐ生活。


子供やプロレスラーと殺し合いを繰り返しての生活。


今の俺じゃ、そのうち破綻する。


『討伐』や『狩り』での生活はやめだ。


◆◆◆

冒険者ギルドに戻ってきた。


「黒木さん、もうお戻りですか? 狩りはなさったのですか?」


相変わらずクールだな。


「ゴブリン1匹だけ狩ってきた。討伐証明の左耳…はい」


「はい、銅貨6枚になります」


俺は銅貨6枚を収納魔法で収納した。


「それで、無料なら端の方のテーブルを借りても問題は無いんですよね?」


「一応、そういう決まりですが、如何わしい事には使えませんよ!」


「占いというか『人生相談』の仕事をしようと思うんだ。ただ、今の所実績が無いから『お試し』で無料で暫く行って、もし生活出来そうならちゃんと場所代を払って商売しようと思う」


「あのですね…ハァ~聞いていませんでした? ジョブが無いとそういう事で成功はしないですよ! やるのは自由ですが」


「だけど、俺はきっとジョブを持った人間以上の事が出来ると思うんだ!」


「普通に考えてあり得ませんが、やるのは自由です…どうぞ」


近くの雑貨屋で木の板と彫刻刀を買って『人生相談 無料』の看板を作り、サリーさんに許可を取り端っこのテーブルに陣取った。


異世界での『人生相談』のスタートだ。



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