第9話 ロゼ
霊能者といえ、何でも知っているわけじゃ無い。
死んだあとの世界はこの世界ではどうなのだろうか?
前の世界なら、神や仏が居るのだから、天国と極楽がありそれとは逆に地獄がある事は解る。
だが、此処は女神イシュタスの世界、恐らくは俺が居た世界と違うはずだ。
前の世界で守護神になってくれた神や仏でも天国、極楽、地獄については詳しくは教えてくれなかった。
多分、余り人間に伝えてはいけないのだろう。
果たしてこの世界は死んだら何処に行くのか。
解らないな。
少なくともあの空間で会った女神は1人で他に誰かが居るような気配は無かった。
それに気になるのは、他の生徒達に憑いていた守護霊だ。
すぐに隔離されたのと自分の身の振り方を考えて余裕が無かったからしなかったが『霊視』をするべきだった。
女神イシュタスしか神や仏の居ない世界。
そこで、女神からのジョブやスキルを貰ったらどうなるのだろうか?
『信仰を捨てた』そう霊は考えないだろうか?
今となっては知る方法は直ぐには無いな。
城から出て会う時までチャンスは無い。
まぁ、神道も仏教もキリスト教もごちゃまぜで信仰している俺が言えた義理じゃないけどな。
◆◆◆
しかし、この世界は死んだら本当にどうなるんだ?
守護霊や指導霊が憑いているから死後の世界はある。
だが、不思議と地縛霊や浮遊霊が少なすぎる。
案外死んだらすぐに何処かに転生するのかも知れないな。
最も霊能者であっても死後の世界は解らない。
守護神や守護仏は何かしらルールがあるのか極楽や天国、地獄については教えてくれない。
そして『霊』はそこに行く前の状態だから『知らない』
結局は自分が死ぬまで、本当の死後の世界は解らない。
俺はそんな事を考えながら草原を歩いていた。
守護霊や神仏と霊話はしていない。
実際の所は解らないが、霊話をしながらだと、霊に遭遇する率が減る。
そういうジンクスを俺は信じているからだ。
暫くするとやや透けた綺麗な女性を見つけた。
綺麗な赤い軽装鎧を身に着け、金髪のややウエーブが掛かった長髪に白い肌、歳の頃は俺より少し年上の美人、目は宝石の様に綺麗なブルーアイ。
女騎士か女勇者? クルセイダー?そんな風に見えた。
つい目を奪われていると、目が合った。
『貴方は私が見えるのですか?』
霊話だ…一般人には聞こえない、頭に直接入ってくる言葉だ。
『見えているよ』
『良かった、初めて私が見える人に出会えた、死人じゃないよね?』
『生きた人間だよ』
『本当に良かったよ!私どうして良いか解らないのよ!』
この霊どうかしたのか?
『自己紹介だ、俺の名前は黒木仁、転移者だ』
『私の名前はロゼ、勇者ロゼって言えば解るかな?』
『いや、転移者だから知らない』
『そう…解ったわ』
ロゼはぽつりぽつりと話し始めた。
どうやら、ロゼと名乗った女勇者は魔族戦い負けた勇者らしい。
魔王と戦って負けたのではなく、魔族領に入った所、運悪く魔族の軍勢に鉢合わせ。
その結果、数の暴力で負けた。
最も本当かどうかは解らないが『100人以上の魔族は葬った』そう当人は言っている。
まぁ、この辺りは当人を信用するしかない。
霊によってはかなり盛っている霊も居るから話半分で考えた方が良い。
『それで勇者がなんで魔物なんかに憑りついていたんだ?』
『仕方ないじゃない?私が死んだのは魔族領、人なんかいないわよ!』
だから、魔族に憑りついて居た、そういう事か。
『確かに、だがこの魔族は強そうだけど、どうしたんだ』
『冒険者の大きなパーティに狩られたのよ!だから討伐証明の右耳が無いでしょう?』
確かに良く見ると耳を斬り落とした痕がある。
『確かに無いな、それでロゼはこれからどうしたい?』
『死んでしまったのは解るの…だけどこんな場所でずうっと居たくないわ、魔族領から憑りついてきてあと少しで街なのに…せめて人間の沢山居る街に行きたいのよ』
『だったら俺に憑りついてみない? 他にも沢山宿っているから、もしかしたら仲間になれるかも知れないし、少なくともこれから先街を含み色々な景色は見せてあげられるよ』
『そう! こんな所に居たくないから、貴方が望むなら良いわ』
『それじゃ交渉成立だな』
こうして俺は異世界で初めて『ロゼ』と言う名の霊を仲間にした。
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