海よりも息がしやすい社会になりますように

信頼していた友人に同性愛者であることを暴露された香奈は自殺を図った。

そんな衝撃的なはじまりの物語は、海の香りがしました。まさに文字が匂い立つような素晴らしい作品です。

人魚になって戻って来た香奈に、幼馴染の晴海はキスをします。彼女もレズビアンでした。二人は両想いだったのです。
だけど、この作品では「女性が好き」と言うよりは「好きになった人が女性だった」という印象を受けました。キャッチコピーにあるように「誰を愛してもいい」のです。

そしてこちらはハートフルな「百合小説」ではなく「同性愛」をテーマにした作品。少数派として社会から爪弾きにされる二人の様子が学校という狭い世界の中で、だからこそわかりやすく描かれています。

性の在り方を本人に許可なく暴露する「アウティング」を民話と照らし合わせているのも秀逸でした。ファンタジー要素ですが、上手く溶け込んでいて惹き込まれます。中今さんの作品を拝読したのは2作目ですが、下調べがすごい。同じ書き手として感嘆するほどです。

宗教の関係で偏見に囚われていてもそこから脱したいと思い始めた友美の変化や学校側の対応など、「期待」や「希望」を残した終わり方が素敵でした。まだまだ薄暗い世界ですが、晴海と香奈が二人でいれば大丈夫な気がする。そう思わせてくれるようなハッピーエンドです。

読み終わった後に知見が広くなり、自分の中の考え方が少しだけ変わる。そんな経験をすることができた作品でした。たくさんの人にぜひ読んでいただきたいです。

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