様々な性の在り方が提示された世の中ですが、未だにそれは受け入れられる物ではありません。
この作品はLGBTの中の『L』、レズビアンである人物が主人公となっています。
誰を愛そうが誰に愛されようが、そんなのは人の勝手なのに、定着した固定概念のせいで、同性愛者は“異端者”扱いされてしまいます。
作中でも、そのような胸が痛む描写がありますが、それはフィクションの中に収まる話ではありません。
甘酸っぱくて、時々苦い。そんな恋の物語でありながら、時折ファンタジーな要素も入り混じってきて、不思議な感覚を味合わせてくれる仕上がりとなってきます。
主人公は周りから見れば『異端』な存在ですから、蔑まれたり疎遠されてしまう事もあります。好きな人と、ギクシャクしてしまう事もあります。
ですが、主人公が葛藤しながら進んでいく姿は、とても美しい。
是非、一読を。
同性愛がテーマということもあり、多方面へかなり繊細な配慮がなされた作品です。ジェンダーに関する問題は、現代においてもセンシティブなもの。古事記など神話や民俗学的な観点を絡め、人間から人魚へ、人魚から人間へとめまぐるしく変わることで、レズビアンであることを暴露された香奈の動揺が表現されている点が、巧みな構成を引き立てています。
晴海と香奈はレズビアンですが、困難に立ち向かおうとする晴海、苦しむくらいならそっとしておいてほしい香奈と、その思考は対照的です。香奈の弱さを受け入れられなかったことを晴海が後悔するシーンなど、当事者はもちろん、意図せず香奈の秘密を広めることになってしまったくるみ、同性愛者を受け入れられない友美など、この問題についてさまざまな立場の少女たちの見解が交錯します。そうなるに至った彼女たちの思考や境遇まで綿密に描かれており、一言では片付けられない、とても複雑な問題提起に、読み手としても多くを考えさせられます。誰もが誰もを受け入れられたらいいのですが、そう簡単にはいかないですよね。
何かが劇的に変化したということではありませんが、物語が進むにつれ、彼女たちなりの答えを出し、このひとつの問題に向き合おうとしています。人魚をテーマにした作品は悲劇が多いですが、晴海と香奈がすれ違いながらも手を取り合うハッピーエンドに、じんわりと胸が熱くなりました。
「同性愛」がテーマになっていますが、本質はもっと広く、少女たちが思春期に持つ心の葛藤が描かれています。
少女たちのもどかしさは、時に幻想的に、時に生々しく表現され、
小説の中に度々綴られる比喩表現は作者の中今透様のセンスが光っていて素敵です。
そして物語は少し不思議なファンタジー要素も含み、神話や民俗学を絡めた展開がとても魅力的です。
とても構成が凝っていて、どんどんと読み進めてしまいました。
自分をさらけ出すことへの不安、人を受け入れることの難しさ。
今を生きる私たちにも共通するテーマでもありますが、希望はいつでもそこにあり、読み終わった後はふわっと優しい暖かさが心に広がる、そんな物語です。
同性愛というものを認められない友人、なんの悪気もなくアウティングしてしまった友人。ある意味これは現代社会が抱える問題の縮図なのかもしれない。
けれどこれはまた難しいところで、認められないことを悪と断じることはまた、人の思考をねじ曲げることに他ならない。
ある意味ままならないそれを美しく描き、そこに古事記の内容を絡めていく。これはそういったことにも通じた作者にしか描けない物語だろう。
私たちは誰を愛してもいい。まさにその通りなのだ。その心は自由で、誰に制限されるものでもない。
私事ではあるが、身近にこの悩みを抱えた人がいる。この物語の結末が希望を灯したものであることを心よりありがたく思います。
ぜひご一読いただきたい作品です。
若き女性同士の恋愛を描いた物語。悲恋やデメリットの象徴とも言える『人魚』というキーワードを、この題材に絡めた点にセンスを感じます。冒頭から『レズビアン』は、よりにもよって同年代の同性に理解されないという現実を、冷たい潮風が吹き付ける様に、読者に印象付けてくる。そこに主人公とのキスが絡み、物語への期待値を高める事に作用していて、非常に良い。
セクシュアルマイノリティに対する漏洩問題、登場する民話に対する解像度も高く、読み応えがあります。田舎町という閉鎖的な舞台装置によって、ファンタジーでありながら、より現実的なイメージを強める。
一方、(小説執筆するくらいなんで、鳴海は多分そういう人物像なのかも……)大人び過ぎなくらい情緒的で、文学的な単語が出てくる地の文をしている為、10代女学生の一人称にしては、結構堅苦しいのでは、という印象を受ける人もいるかもしれません。しかし、物語の空気感や扱っている『同性愛』、『古事記』といった素材を考えれば、これで合っていますし、全体的にとても丁寧に作り上げられた作品です。
百合の一歩先を行った、息苦しくも生温かい肌触りを感じる、女の子の恋愛を読みたい方に、オススメします!
本作の魅力を一言で表すのはとても難しいです。
自殺した親友が人魚になるという、一見、ライトな昨今流行りの百合小説のような始まりですが、その奥にはとんでもないストーリーが潜んでいます。
舞台となった土地に伝わる伝説と、巧みな主人公たち女子高生の心理描写が、人間が人魚になるというファンタジー要素に説得力を与え、この物語をとてもリアルなものとしています。
人の善意によって人が苦しみ、人の悪意が物語の結末に明るい未来を期待させる奥深いストーリーには脳天が痺れるような衝撃を受けました。
とにかくすごい作品を読んだ、カクヨムには自分の知らない作品がまだまだあるのだなと改めて実感しました。