悩める少女たちはそれぞれの答えにたどり着く

同性愛がテーマということもあり、多方面へかなり繊細な配慮がなされた作品です。ジェンダーに関する問題は、現代においてもセンシティブなもの。古事記など神話や民俗学的な観点を絡め、人間から人魚へ、人魚から人間へとめまぐるしく変わることで、レズビアンであることを暴露された香奈の動揺が表現されている点が、巧みな構成を引き立てています。

晴海と香奈はレズビアンですが、困難に立ち向かおうとする晴海、苦しむくらいならそっとしておいてほしい香奈と、その思考は対照的です。香奈の弱さを受け入れられなかったことを晴海が後悔するシーンなど、当事者はもちろん、意図せず香奈の秘密を広めることになってしまったくるみ、同性愛者を受け入れられない友美など、この問題についてさまざまな立場の少女たちの見解が交錯します。そうなるに至った彼女たちの思考や境遇まで綿密に描かれており、一言では片付けられない、とても複雑な問題提起に、読み手としても多くを考えさせられます。誰もが誰もを受け入れられたらいいのですが、そう簡単にはいかないですよね。

何かが劇的に変化したということではありませんが、物語が進むにつれ、彼女たちなりの答えを出し、このひとつの問題に向き合おうとしています。人魚をテーマにした作品は悲劇が多いですが、晴海と香奈がすれ違いながらも手を取り合うハッピーエンドに、じんわりと胸が熱くなりました。

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