オカルトに科学的考察を加えた、オリジナリティのある現代ファンタジーです

普通の日常を送っていた高校生、大磯 拓磨はある日鴉に突かれ、それが原因で謎の靄を見てしまう。この靄の正体は「神粒」。人の思いに影響を受け、実体化させる物質です。
鴉こと優秀な御使いであるヤタは拓磨に鏡姫を探してほしいとお願いをし、彼はヤタのお願いを聞いてあげることに。神粒のことを学んでいくうちに彼の親族や彼自身にまつわる秘密、そして謎の宗教団体の存在が明らかになっていく現代ファンタジー作品です。

この作品の根幹を成すのが謎の物質「神粒」。人の思いの強さに影響を受けるこの物質は、あらゆるオカルト現象のもとになっています。暗闇の中に何かがいると信じ込んでしまえば神粒はそれを実体化させてしまうし、大切にされてきた思念が物に宿れば付喪神となる。そして人々の思いが強く、またそれを望む者が多ければそれは神をも生み出してしまうことに。

本作は現代ファンタジーではありますが、派手な異能バトルがあるような作品ではなく、どちらかというとヒューマンドラマ的側面の強い作品です。神粒を使いこなせる「陰陽師」という職業が出てきますが、あくまで式神を使役したり実体化させることくらいしかできません。
神粒を操るという能力はあくまで付属品であり、問題を考えるのも解決するのもすべて生身の人間自身の能力に委ねられます。どちらかというとファンタジー要素がほんのり加わった人間ドラマという読み口ですが、だからこそ彼ら自身が自分にできることを考え、葛藤し、前に進んでいく姿に読者は共感できるのです。

序盤から散りばめられたいくつもの伏線がページを繰る度に一つに集約していく構成も面白く、再読する度に新しい発見があるのも見所。
特にラストの展開でタイトルが回収される場面は必見です!

科学が発展し、神や霊などいないとわかっていても、人の心は弱く何かに縋らずにはいられません。人の心の強さも、弱さも、本作は真正面から丁寧に描いています。
最初は頼りなく見えたキャラが自分の意志で敵に立ち向かうシーンや、家のしがらみに囚われていたキャラが正しい選択肢を掴み取るシーンは、読者もきっと熱くなれるはず。

この世界に息づく彼らの生き様にほんの少しのファンタジー要素を添えて。人間になっちゃう可愛い鴉の女の子や頭の切れるイケオジ陰陽師。甘酸っぱいラブコメ要素やヒューマンドラマにミステリ要素など、読者を楽しませてくれる仕掛けがたくさんあります。気になる方はぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

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