鏡よ鏡、うつし世におわします神々は——一体いづこに祈るのでしょう

 父親との距離に悩む主人公大磯 拓磨。平凡で、少し長めの前髪と眼鏡を掛けた姿というようなどこにでもいる主人公。
 彼の日常は、ある日出逢った鴉によりつけられた印により段々と変化の兆しを見せはじめる——。

 現代社会の中で、その常識を覆すような「神粒」という存在が公表され、やがて拓磨もそれを巡った不穏な動きの中に身を投じる事に。
 序盤は受け身のようにも感じられた優しい主人公が、どんどんとその心の強さを発揮し様々な困難に立ち向かって行く様子には胸を打たれます。
 そして彼を取り囲む鴉——な美少女、不思議なアンティークショップの店主、オカルト系の話題を口にする学校随一の美少女、そして頼れる先輩と登場人物もすごく魅力的。

 陰陽師という存在の不可思議な力を、神粒という物質と絡めてしっかりとした設定の下に書き上げてる手腕も、作者様ならではのお見事!の一言。

 やがて浮かび上がってくる怪しげな新興宗教団体とその野望。政府の機関との三つ巴展開。全てを巻き込み動き出すそれぞれの思惑。
 その中で弱気だった主人公が前を向き、父親や周りの人達との絆を紡いでゆく。彼が自分から未来を掴もうと諦めずにその力を出す時、タイトルの意味が一気に読者の脳裏を駆け巡ります。
 最高なので、後半はもう一気読み必至。
 鴉との絆が可愛いので、個人的にはそこも注目して読んでほしいところ(笑)

 第一部完結の時点でこのレビューを書いていますが、続きがもう気になってしまう……! しかし物語の世界観やその軸をじっくりと楽しめるので、今から読んでおいて全く損はないでしょう。むしろ読むべき!

 鍵となる『鏡』とは一体。その謎が明かされていく展開もドキドキです。

 万物に宿る神、物が命を灯した付喪神。鏡に映るこのうつし世に、どれほど神と名のつく物があるでしょうか。
 もしかしたら、あなたのすぐ側にも。
 
 聞こし食せ彼らの願いを。聞こし召せかの物語を。

 大注目の一作間違いなしです!是非とも。

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