嫁入りから始まる三者三様の切ない片思いのお話
- ★★★ Excellent!!!
この物語は、ただの村娘である須原が御上に見初められ、嫁入りするところから始まります。全三話からなる短編連作ですが、一話ごとに月裳、吉良、須原と視点が変わります。
一人称のお話ですが、月裳も須原も自分の思いを明確には語りません。ですが、情景描写や登場人物の行動などから、切なく胸を締め付ける感情がひしひしと伝わってきます。この間接的な感情の表現が、しめやかで美しい和風ファンタジーの世界観を作り出しており、書き手としても感嘆させられます。
また、村娘の嫁入りで悲恋というと、身分の高い方に見初められ無理やり結婚というのを想像しますが、御上はとってもいい人です。知らない場所、知らないしきたり、知らない男(御上)に半ば無理やり嫁がせてしまったので、なるべく須原が心労を感じないようにと気を遣ってくれる優しい人です。夫として、最高の人だと思います。でも御上には御上にしかわからない孤独があって… その孤独を唯一癒せる人が須原なんです。
しかし御上の幸せ=須原の幸せではない。そこがなんとも辛い点ですね。