御上の花嫁

作者 高村 芳

136

47人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

この物語は、ただの村娘である須原が御上に見初められ、嫁入りするところから始まります。全三話からなる短編連作ですが、一話ごとに月裳、吉良、須原と視点が変わります。
一人称のお話ですが、月裳も須原も自分の思いを明確には語りません。ですが、情景描写や登場人物の行動などから、切なく胸を締め付ける感情がひしひしと伝わってきます。この間接的な感情の表現が、しめやかで美しい和風ファンタジーの世界観を作り出しており、書き手としても感嘆させられます。

また、村娘の嫁入りで悲恋というと、身分の高い方に見初められ無理やり結婚というのを想像しますが、御上はとってもいい人です。知らない場所、知らないしきたり、知らない男(御上)に半ば無理やり嫁がせてしまったので、なるべく須原が心労を感じないようにと気を遣ってくれる優しい人です。夫として、最高の人だと思います。でも御上には御上にしかわからない孤独があって… その孤独を唯一癒せる人が須原なんです。
しかし御上の幸せ=須原の幸せではない。そこがなんとも辛い点ですね。


★★★ Excellent!!!

 ある日、御上に見初められ、とある村の娘が嫁に行くことに。
 秘めた想いを口に出すことなく静かに見送る幼馴染み、心の拠り所を求める孤独な御上、かつての思慕を思い出し涙を流す娘──。
 三者三様の思いが、視点を変えて淡々と静かに語られます。そこにあるのは、ただ運命のいたずらだけで、誰も悪くないからこそやりきれない思いが込み上げてきます。美しくせつない余韻がたまらない恋物語です。

★★★ Excellent!!!

 偶然偉い人に見初められた幼なじみ、その嫁入りを見送ることになった青年の物語。

 和風な世界が舞台の、ちょっとせつない恋愛譚です。
 いやせつなさ度合いで言ったら「ちょっと」どころではないんですけど……。

 あらすじとしてはほぼ上記の通りで、主人公は本当にただ見送るだけの立場です。
 したがって、彼自身の起こす色恋的な振る舞いはあまりないのですけれど、しかしそれでも間違いなく、これ以上ないほど恋愛劇してるお話です。
 本当に「せつない」という形容以外に何も思いつかない……。

 あまり多くは語られないというか、内心を露骨に文字にしてしまわないところが大好き。
 嫁いでゆく幼なじみの須原さんの内心は当然として(もとより他者の心の中は見えないので)、視点を担う月裳さんの胸の裡さえも直截には書かれない。

 本心というか、実際のところはどうだったの、という部分が、ほぼ読み手の想像に委ねられていることの心地よさ。
 あるいは、そもそも言葉にしようのない、この作品本文の他には語りようのない思いだったのだろうと、そう思わせてくれるところが本当に好きです。

 言い表す的確な言葉がないというか、仮に近い言葉に置き換えたとしても、でもそれはあくまで「近い」でしかないというか……。
 きっと言葉にした時点で削られてしまう、その「何か」こそが何より大事なお話。

 どんな思いをそこに想像しても、しかしどうあれ残るどうしようもないせつなさ。
 読後の余韻がたまらない作品でした。

★★★ Excellent!!!

おもしろい・おもしろくないという次元とは違う。
作品として完璧かそうでないかも、私には判断がつかない。
ただなんらかの価値を感じ、埋もれるべきでない作品であるという直観はある。
読むべき人が読んで、何かの糧となればよいと思います。

★★★ Excellent!!!

激しい雨が降る朝、主人公の幼馴染みは御上に嫁いでいく――。制御の効いた文章は、主人公とその幼馴染みの娘の心情を多くは語りません。ですが、丁寧な情景描写から滲み出るふたりの心情を思うほどに、深く胸に染み入る掌編です。読み手の想像力をどこまでもかきたて、より余韻を引き立てる文の静けさと、降りしきる雨の激しさの対比が美しい作品です。