嫁いでゆく幼なじみへの複雑な思い

 偶然偉い人に見初められた幼なじみ、その嫁入りを見送ることになった青年の物語。

 和風な世界が舞台の、ちょっとせつない恋愛譚です。
 いやせつなさ度合いで言ったら「ちょっと」どころではないんですけど……。

 あらすじとしてはほぼ上記の通りで、主人公は本当にただ見送るだけの立場です。
 したがって、彼自身の起こす色恋的な振る舞いはあまりないのですけれど、しかしそれでも間違いなく、これ以上ないほど恋愛劇してるお話です。
 本当に「せつない」という形容以外に何も思いつかない……。

 あまり多くは語られないというか、内心を露骨に文字にしてしまわないところが大好き。
 嫁いでゆく幼なじみの須原さんの内心は当然として(もとより他者の心の中は見えないので)、視点を担う月裳さんの胸の裡さえも直截には書かれない。

 本心というか、実際のところはどうだったの、という部分が、ほぼ読み手の想像に委ねられていることの心地よさ。
 あるいは、そもそも言葉にしようのない、この作品本文の他には語りようのない思いだったのだろうと、そう思わせてくれるところが本当に好きです。

 言い表す的確な言葉がないというか、仮に近い言葉に置き換えたとしても、でもそれはあくまで「近い」でしかないというか……。
 きっと言葉にした時点で削られてしまう、その「何か」こそが何より大事なお話。

 どんな思いをそこに想像しても、しかしどうあれ残るどうしようもないせつなさ。
 読後の余韻がたまらない作品でした。

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