キラキラ

 夏祭りの日、私はひまわりの浴衣を着てテンちゃんと出かけた。夏祭り会場は公民館そばの空き地で、露店もみっつよっつあるだけの、本当にちいさなお祭りだ。一日だけの特別な遊び場、そんなふうに子どもの頃は感じてた。

 テンちゃんとは約束してたわけじゃない。ただいつものように遊びに行って、お祭り行こうって言っただけ。

 会場までの道中はみんなで作った灯籠が一定間隔で飾られていて、これは誰の、あれは誰の、なんてテンちゃんとおしゃべりしながら向かったっけ。傾く太陽の光に反射してキラキラ灯籠が輝いていた。ううん、輝いていたのは、思い出だからかも。もう遠い昔のことみたい。それとも、生きていたとしても、二十歳も近くなれば中学三年生なんて、やっぱり遠い昔に思うのかな。

 浴衣で歩くのが遅い私を見かねてテンちゃんが手を差し出してくれた。私は嬉しくなって手をとった。そのまましばらく、私たちは手を繋いで歩いた。

「あらぁ仲良しねぇ」「おっ、アツいねえー!」すれ違う人々はもちろんみんな知り合い。気軽に声をかけてくるしそれが日常、なのだけれど。

 テンちゃんはああ、とかそっすね、とか適当な返事しかしなくって、当時の私は変なの、と思ってた。そうやって首を傾げてるうちにテンちゃんは私の手をぱっと離した。

「テンちゃん、待って」

 待ってと言えば待ってくれる。振り向いて私を見てくれる。私の歩く速度に合わせてはくれるけど、その日はそれ以来、手は繋いでくれなかった。

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