行き止まりの夏、ひらくころ
早藤尚
黄昏
ざ、と遥か足下で波が立つ。
茜色をめいっぱいたゆたえた海のむこうには、何もない。何も見えない。
見えるのは、行き止まりのような水平線だけだ。
「こんな島出てェ」
いつの間に隣に来ていたんだろう。幼馴染みが一緒に海を見ていた。
「テンちゃん」
私の呼びかけに応えぬまま、彼はじっ、と正面を睨みすえる。
島、出たいの。知ってる。昔から言ってたものね。進路だって、本土の企業に内定が決まっていて。だけど。
「……どこに行くんだろうな」
テンちゃんはぼそりと呟いた。黄昏時のせいか、どんな表情をしてたのか、私には判らなかった。
……島を、出て、どこに?
「わからない」
わからない。だって出たことがない。
私はずっと、この島にとらわれている。
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