金魚

「今年の祭りは金魚すくい出せねぇなー」

 したたる汗をシャツの裾で拭い、テンちゃんは残念がる。それもそう。だって金魚すくい、毎年あるもの。ないのは、寂しい。

「金魚、元気ないんだって?」

 仕入れの業者さんが言うには、酷暑が理由らしい。たしかに、今年は本当に暑い。こうして日向にいるだけで、テンちゃんの足元に汗のしみがぼたぼたと落ちる。じゅわ。陽炎のせいでそんな音まで聞こえてきそう。

「まあまあ。言うて毎年変わらん露店だからな。代わり映えあって子どもらは喜ぶだろうさ」

 磯屋さんの言葉に頷くテンちゃんはやっぱり不満そうだ。

「天司、お前さんだってそうだろ?」

 私はテンちゃんを見る。

 ……残念、だよね?

 けれどテンちゃんは。

「そう、だな。金魚、やめるか」

 そうして磯屋さんとふたりで、今年の露店はどうするかを話していた。

 ちいさい頃、夏祭りでテンちゃんと金魚すくいをした。私もテンちゃんもへたっぴで、けっきょくすくえた金魚はふたり合わせて一匹だけだった。その金魚はテンちゃんのおうちで飼うことにして、私たちはせっせとお世話をしたのだ。金魚は露店にいた頃よりずいぶんと大きくなって――そしてある日息絶えた。寿命でしょ、とお母さんは言っていた。

 私とテンちゃんは、テンちゃん家の庭に金魚を埋めた。

 そのお墓は、いまもある。

 はず。

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