天の川
七月七日になると毎年公民館に笹が飾られる。思い思いの短冊をさげて、大人は飲み会を、子どもは連れてこられた者同士好きに遊ぶのが、この島の七夕だった。昔はこの時間がとても特別なイベントに感じられていて、私にとっては夏祭りと同じくらい心待ちにする日だった。
いつだったか、テンちゃんが私の短冊を笹に結んでくれたことがある。高いところに結びたい、という私の願いを叶えてくれたのだ。
『自分の願いじゃねぇのかよ』
『だって天の川見えないよ』
『雲の向こうで会えてるかもしんないじゃん』
あれからずっと、七月七日の夜は雨だった。
「天司、おめェさんもこっち来て呑みな」
「誕生日まだなんで。スンマセン」
公民館のお座敷でおじさんたちが今年の漁の具合はどうだ、台風がどうだ、と赤い顔で駄弁り合う。『大人』になってしまったテンちゃんもすっかり仲間入り。
「ンだ一ヶ月二ヶ月変わらんて!」
すんません。テンちゃんはもう一度断る。テンちゃんの愛想笑いはお世辞にも上手くない。接客業だって、きっと苦手だろうに。
「テンちゃん」
「いたいた、天司君!」
「高砂? どうした」振り向くテンちゃんの視線は私を通り過ぎてゆく。「ちょっと男手が欲しくって」「わかった」ふたつ返事で快諾するテンちゃんは心なしかほっとした様子だ。
「ありがとう、助かった」
ぼそりとこぼれた感謝の言葉を、私と守屋さんだけが聞いていた。
私は空を仰ぐ。今年も、雨でよかったのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます