氷
「凛花。それ取って」
掃き出し窓から身を乗り出してテンちゃんが守屋さんを呼ぶ。呼ばれた守屋さんは「はい」と座卓の上にあった車のキーを渡した。
テンちゃんは近頃、守屋さんを名前で呼ぶようになった。本当に、自然に、いつの間にか。
りんか。綺麗な人は名前も綺麗なのだとちょっと羨んだ。
「改築順調?」
「昨日見てきたの。いい感じ」
そうだ。守屋さんは家の改築のあいだ、部屋を借りている。確か期間は半月。
「だから、近いうちにお
「ああ……」
テンちゃんはちょっと気の抜けた返事をした。守屋さん家は山を挟んで反対側だ。山道をのぼって川を渡った先にある。腰の悪いおばあちゃんひとり暮らしだったら孤立しているような場所だ。
「バリアフリーってやつになんだろ」
「そう。祖母はここに骨を埋める気でいるしわたしもお世話できるうちはしてあげたいし」
「嫌になったりしねえの」
「それが意外とね。わたし好きみたい、こういう仕事」
そういう職に就くのも悪くないかも、と守屋さんは笑う。テンちゃんは何か物言いたげだったけど、私は守屋さんに似合うと思った。
「そうだ、お前次は来いよ。もう一回あるから。灯籠作り」
「本当? 行く行く!」守屋さんはぱあっと顔を輝かせた。
「ガキのうちはあいつもこいつも名前呼びだから」
だから来たほうがいい、とテンちゃんは言っているのだ。たぶんこの間の守屋さんへのフォローなんだろう。確かに子どもたちの間ではみんな名前で呼ぶ。私もテンちゃんもそう。だから、
「あーその頃は家か? じゃあ迎えに行くから。凛花の家まで」
だからこれも、きっと特別な意味なんてない。
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