黒一色の文字なのに色彩が見える

 SNSに投稿された一枚の画像を通して、世界観を考察させてくるプロローグ。世界観の説明ではなく、SNSという媒体を使うことによって我々読者も作中にいるかのように世界観を考察するため、一気に引きずり込まれます。
 カクヨム上では、白の背景と黒の文字の二色しかないはずなのに、色鮮やかな水没した東京が見えます。ドローンの空撮のように滑らかに描き出されていくかつての大都市の情景。そして、不気味なはずの巨大な蓮の花と雌蕊の上の多頭多腕の巨像。私は白と黒で描かれた、色味豊かな東京と不気味な蓮の花のミスマッチを幻想的で美しいと思いました。

 本編は、見ている世界の色が足りない主人公と常人よりも色の認識が優れすぎている超色覚の少女のバディ物で描かれています。
 序盤はゆっくり丁寧にこれでもかと二人がどんな人間かを掘り下げていきます。この掘り下げが起承転結の[転]で効いてくる。読んでいると初めは掘り下げが丁寧すぎるかなと思うかもしれない。しかし、一章を読み終えた時、全て納得できるはず。
 私は納得した。これは必要な掘り下げだったと。

 ここまで書いてふと思うのは、三人称でかかれているのは、我々読者の色覚がマコトとアーティの中間に位置しているからではないかと。

 凄く面白かったから、みんなも読んで!

その他のおすすめレビュー

七海 司さんの他のおすすめレビュー89