児童文学と純文学の二刀流

 序盤は児童文学の筋で書かれていて、出来ぬ不甲斐ない思いと共に生きていた少年に共感して読み進めると何やら大人達がきな臭い。大人達の悪巧みが出始めてからワクワクが止まりませんでした。
 大人達は一般文芸として、深く重い設定と諦観を持ちながらも機が熟するまで耐え忍び今動くぞという大河的なワクワク。
 少年達は児童文学ならではの鬱屈とした無力感から脱却するために故郷を後にする変化と成長のワクワク。
 二つのワクワクが最後までずっとありました。
 人の生きた証しである小さな命の流れが、幾つも集まり次第に大河になり、読者を押し流していく。いずれ大海へと至る河は、歴史という分類の設定で護岸工事されている。
 もうね、設定資料集を渇望するほど綿密で細部まで詰められた世界がここにあるのです。設定集、ほちい。と思いながら読んでいましたら、ありました。パーフェクトガイドが。しかも、各章ごとに分けられてた親切設計ですよ。好き。
 そして、親切設計がもう一つ。作中で反復学習があるのです。多くの人は一回の説明で理解できない事は沢山ある。故に歴史の説明は何度も何度も忘れたであろう頃合いを見計らって説明が入ります。登場人物が変わるので説明の味付けもほんの少し変化しているのです。ありたいていに言えば、コピペではないのです。本当に丁寧な仕事です。

 さあ、三礼、三拍手の後に鈴がなったら、命の奔流に抗う少年達の決断を見守ろう。

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