世界の真実を紐解く興奮を呼び起こす、和風ディストピアファンタジー
- ★★★ Excellent!!!
本作を読み始めた時は、いわくありげな崇拝対象と参拝の作法、人が消えるという伝承、老婆が繰り返す不穏な言葉などから、古代日本風世界を舞台にした因習ホラーものだと思っていました。ですが、本作の真髄はそこにはないことはすぐに分かります。あるていど物語に親しんだ読者なら、描かれる素朴な世界の外側に、壮大な歴史や謎や対立の構造があることを予感して血が騒ぐことでしょう。
村外からの来訪者によって知らされた真実、村の指導者層でさえ密かに抱いていた疑問から、主人公の少年はこれまで信じていた世界の危うさと歪さを知ります。読者視点だと、何も知らなかった彼の動揺は痛ましく、真っ直ぐな怒りは大いに共感を呼んで物語に惹き込んでいきます。主人公の八咫だけでなく、登場人物それぞれにれっきとした人格と背景、それに伴うドラマがあるのも魅力です。閉鎖的な村で被差別階級だった食国、優秀な後継者の仮面の下で苦悩を抱えていた熊掌、最初はジャイアンとスネ夫ポジションにしか見えなかった梶火と長鳴。大人世代も、村の外の人々も、それぞれに譲れない信念が交錯する様に手に汗握りながら、気付けば読了していました。散りばめられた伏線・情報が収束することで描き出される世界、それを味わうことは心地良い読書体験でした。
タイトルに「序章」とある通り、まだ壮大な物語は始まったばかりとのことです。この世界の歴史の謎はまだ多く、各登場人物の行く末も気になります。読者としては第二章の開始を楽しみに待っているところです。