歓迎会(後編)
「あ、ケリン君。 フィーネちゃんを抱えてどうしたの?」
「まぁ、この子が俺に甘えて来たんで……」
ケリンが来ていた事に気付いたアルマが、フィーネを抱きかかえているのを見てどうしたのかと聞いた。
聞かれたケリンは、フィーネが甘えて来たという事にした。
実際、本当にケリンに子供たちの中では誰よりも懐いているので間違ってはいない。
「すごいですね、ケリンさんは。 出会って間もないのに子供たちに懐かれるんですから」
「他のみんなにも言ってるけど、俺も元は孤児だったしな」
「なるほど……。 あ、改めて名乗りますね。 僕はスクル・ファーランドと言います。 職業は『騎士』です」
「私はエクレア・リリアーノです。 『黒魔術師』が私の職業です。 よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、改めてよろしく。 フィーネちゃんは食べたいものあるか?」
「……これ、たべたい」
「じゃ、フィーネちゃん用の椅子持ってくるね」
お互いに改めて自己紹介をした後、アルマはフィーネ用の椅子を持ってくるために一度離れる。
エクレアがフィーネの食べたいものを取ってもらった。
「フィーネちゃんはこっちに座ってくれるかな?」
「……や」
「いい子にしてたらまた遊んであげるからな」
「分かった、にーに」
一度ケリンから離れなかったが、彼が約束をしたら素直にいう事を聞いた。
椅子にはケリンが座らせ、そのまま隣にいることにした。
「ホントにたった数時間でフィーネちゃんが懐くなんてケリン君すごいよね」
「子供の扱いに慣れてるというだけで、完璧じゃないんだけどな……。 っと、フィーネちゃん口にソースがついてるぞ」
おいしく食べているフィーネの口にソースが付いたので、ハンカチで拭き取る。
嫌がることなく素直に応じるフィーネの様子に、ギルドのメンバーも感心していた。
「ケリンさん、本当に手馴れてますね」
「そうだね。 向こうで孤児院に住んでいたという事も関係があるんだろうね」
エリューシアとシルスが特にその様子を見て、そう感じたのだとか。
歓迎会の時間帯のほとんどがフィーネの面倒を見ることに費やしていたケリン。
結局は最初に食した料理しか食べれなかったようだ。
とはいえ、子供に好かれるというのは悪い気はしないので、黙っておいたが……。
「はーい、歓迎会終了の時間だよー。 後片付けしてから解散。 明日に備えてしっかり休んでね」
「「「「了解!!」」」」
「あ、ケリン君は使う部屋を案内するから残っててくれる?」
「あ、そういえば部屋の事、考えてなかったな……」
歓迎会の終了時刻が迫り、みんなで後片付けを済ませて各自解散をした。
フィーネも疲れて寝ていたが、そこはレナに任せることにしていた。
そして、ケリンとアルマは、彼が今後使う部屋の案内をするためにこの場に残った。
「さて、ケリン君の部屋に案内する前に……、はい、君の分残しておいたよ」
アルマは、冷蔵庫からこっそりケリンの分をと取っておいた食事を差し出した。
それを見たケリンは、こう反応した。
「これ、食べていいのか?」
「うん、初っ端からフィーネちゃんの面倒を見てくれたしね。 多分、あまり食べれていないだろうと思ってたからね」
「悪いな、ここまでしてもらって…」
「気にしないで。 キミも明日から頑張ってもらうんだし、活力は付けないとね」
「分かった、いただきます」
「どうぞ、召し上がれ♪」
差し出された食事をケリンは素直にいただいていく。
「美味いな……」
「それはよかったよ。 その料理、実はボクが担当した料理だからね」
「そうなのか……。 料理が得意なんだな」
「ま、まぁ、子供たちのために料理を振舞うのだから、自然に得意になっていったよ」
ケリンが素直に褒めると、アルマは顔を多少赤らめて、視線を外した。
だが、すぐにケリンに向き合った。
「食べ終わり次第、キミのお部屋を案内するからね」
「こりゃあ、早く食べないとな」
「いや、むしろゆっくり味わって食べてね?」
アルマが笑みを浮かべながら、食べるケリンを見る。
まるで姉が弟を見守るような眼差しだった。
食べ終わった後、二階に案内され、階段近くのやや広めの部屋を与えられた。
おそらく子供たちとのコミュニケーションをするために広くとった部屋だろう。
そこが、ケリンが今後寝泊まりする部屋になる。
「今日からケリン君はその部屋を使うようにね。 じゃ、ボクはこれからキミの加入手続きをしておかないといけないから、また明日ね。 おやすみー」
「ああ、お休み」
アルマにお休みの挨拶をした後、すぐにベッドに飛び込んだ。
ベッドは『サテライト』の時代とは打って変わってフカフカの心地よいベッドだった。
ベッドの上で、ケリンは独り言を言い始める。
(アルストの町に来てから速攻でスカウトされるとは思わなかったけど、とりあえずの居場所は確保できたな。 後は、みんなに迷惑をかけないように頑張っていくだけだ。
ケリンは明日からの決意を新たにして、そのまま深い眠りについたのだった。
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