追放された少年と少女

「さて、こんなものか。 しかし、相変わらずミスリルソードの切れ味は抜群だなぁ」


「ケリンさん、お疲れ様です。 流石ですよ」


「あのすばしっこいアルミラージをも上回るスピードは、シルスの株も奪う位だな」


 一か月が経過し、ケリンも今では『スカーレット』の主力の一人として活躍するほどになった。

 その分、酷使されるかと思いきや、ギルドマスターのアルマが無理やり休みのスケジュールを組んでいたので、そこまで疲労感はなかったようだ。

 それでも手にするお金やその他報酬も『サテライト』にいた時代よりもいいものが多いので、特に困ることはなかった。

 今回は、エクレアとアレン、そして荷物持ちのレラジェとともに、アルストの町から北西に徒歩で大体40分くらいで着く赤薬草群生地に現れたウサギ型の魔物『アルミラージ』の討伐依頼をこなしていた。

 ウサギ系の中ではかなり素早いので有名な『アルミラージ』だが、ケリンのスピードに乗せた剣技の前には無意味だったようだ。


「本当にあの衝撃波はすごかったですよ。 私の範囲魔法でも避けられてしまうのに」


「ミスリルソードの軽さもあってか、思った以上に素早く振り抜けたからな」


「それ以上にケリンさんの実力も上がっているんですよ」


 ミスリルソードの軽さのおかげと言うケリンに、エクレアがケリンの実力自体も評価していた。

 彼女もそれだけケリンの力を認めているのだ。


「時間はかかるだろうと覚悟してたけど、ケリン兄貴のおかげでアルミラージ20体の討伐も早く終われたよな。 角の収納は終わったぜ」


「よし、町に帰るとしようか」


「はいっ!」


「「おうっ!!」」


 レラジェがアルミラージ討伐の証である『アルミラージの角』を20本収納したのを確認したケリン達は、アルストの町へ戻るのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「さて、まずは連盟に報告だな」


 アルストの町に戻って来たケリン達は、最初に冒険者連盟アルスト支部へ訪れた。

 依頼の完了報告と報酬を貰うためだ。


「ん?」


 その連盟支部の入り口付近に落ち込んだような状態のまま座っている少年少女をケリンは見つけた。


「ケリンさん、あの子たち……」


「剣を持っている辺り、おそらくは剣士だろうな」


「別の国から来たのか? 身なりがボロボロだぞ」


「どうします?」


「俺が声を掛けてくるよ。 アレンはマスターに報告してくれ。 あと、エクレアとレラジェは完了の手続きと共に、連盟のスタッフを誰か連れてきてくれ」


「分かった。 マスターに伝えてくるぜ」


「私達はスタッフさんに言えばいいのですね。 ケリンさん、その子たちをお願いします」


「ああ」


 ケリンは、アレンにはアルマに報告するように、エクレアとレラジェには手続きのついでにスタッフを連れてくるように頼んだ。

 そして、項垂れている剣士の少年少女の元にケリンは向かい、声を掛ける。


「どうしたんだ、二人とも?」


「あ……」


 ケリンの声に気付いて、彼の方を向いたのは少女の方だった。

 少年は未だに俯いたまま気付いていないようだ。


「突然すまないな。 身なりがボロボロだしな、放っておけなかったんだ」


「す、すみません」


「いや、構わないよ。 でも、そんな状態でここまで来たんだろう? 教えて欲しい。 何があったんだ?」


「お兄さん……」


 ケリンが心配そうに少女たちを見つめているのを見て、信頼できると踏んだのか少女は口を開いた。


「私達、アレックス帝国で『剣士』として冒険者をやっていたんですけど……、数週間前に追放されたんです」


「追放……」


「はい。 所属していたギルドから追放宣言を受けました。 荷物も必要最低限のものしか持たせてくれませんでした」


「もしかして、その必要最低限なものって……?」


「使い切りましたが、僅かな食料とこの剣と……、服一着分です」


「酷いな……」


 少女の話を聞いて、ケリンは表情を歪めた。

 エリクシア王国以外の場所で、酷い追放を行ったギルドがあったからだ。

 しかも、僅かな食料、服一着分、そして剣のみで。

 ここに来るまでにかなり辛い思いをしてきたのだろう。

 少女の身体が震えていた。


「何で追放されたんだ?」


「私達が弱いからだと……。 特に私とこの子……リトは双子なので、強さも半分になってしまっているのが原因だとかで……」


「双子……」


「道中で色々あって、そのショックでリトは喋れなくなったんです」


「だからか……。 そこの男の子が一言もしゃべらないのが気になったから。 ショックで喋れなくなっていたのか」


 追放の理由が、双子かつ能力が半分になっているためらしい。

 そういった事が引き金となったのか、リトという双子の男の子は喋れなくなっていたようだった。

 その最中に、光が発生し、そこからアルマが現れた。 転移で来たんだろう。


「お待たせ! アレンから報告があったけど、その子たちの事かな?」


「ああ、実はな……」


 ケリンは、アルマが来るまでに少女が話した内容をしっかりとアルマに伝えた。

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