追放剣士は新天地のギルドで花を咲かす

イズミント

除名処分と隣国の出会い

 エリクシア王国の首都を兼ねているエリクシア城下町にある一つのギルド……。

 そこである一人の少年の人生の転機が訪れる出来事があった。


「ケリン。 今日付けでお前はこの『サテライト』から除名する」


 その日、ケリンと呼ばれた剣士は、『サテライト』のギルドマスターから除名宣告を受けた。


 除名……。

 それは今まで所属していたギルドから追放されることを意味していた。


 彼は剣士。

 そして冒険者ランクはBと『サテライト』の中では低く、その上で剣士はこの『サテライト』内部ではひどく冷遇されていた。

 それもそのはず。

 『サテライト』は攻撃力が全ての脳筋の集まりであるため、戦士や攻撃魔法を使う黒魔術師は優遇されていた。


(除名処分にはなったけど……、ある意味でようやく……か)


 だが、ケリンはなんとも思わなかった。

 彼は幼いころに両親を失い、孤児院で育てられ、15歳になった時に無理やり今のギルドに入れられた経緯があるからだ。

 しかもエリクシア王国内のギルドは、一度入ってしまうとギルドマスターから除名宣告を受けない限り抜けられない決まりがあったのだ。

 戦士や黒魔術師のメンバーから出来損ない扱いを受けながらもここまで何とかやってこれた。

 しかし、先述の通り剣士は冷遇されているので、なかなか冒険者ランクは上がらなかった。

 手柄のほとんどが戦士や黒魔術師に横取りされていたから。

 なので、この除名宣告はある意味ケリンにとって牢屋から解き放たれたのと同じなのだ。


(さて、そうと決まればこの国にいる必要はないな。 早く出てしまおう)


 最低限の装備でギルドから出て行ったケリンは、エリクシア王国を出て、徒歩で数日かけて隣国のリーベル公国にある一つの町へ向かって行った。

 道中で多くの魔物を斬り伏せながら。

 その時のケリンは、窮屈なギルドからの解放感からか、かなり爽やかだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 リーベル公国領・アルストの町。

 境界線付近に存在しながらも、城下町に次ぐ二番目に大きい町の換金屋で道中で手に入った魔物の素材を売った。

 その総額は2000ゴールド。


「とりあえず、これで今日の宿代と食事代が確保できたな」


 そうひとりごちながら宿屋へと向かう最中だった。


「ねぇ、そこのキミ!」


「え、俺?」


 突然、後ろから声を掛けられ振り向くと笑顔の少女がそこにいた。

 彼女は青色の三角帽子を被り、青色のブレザーと短めのプリーツスカートを着ており、その上に紺色のマントを羽織っていた。

 髪型は緑のセミロングヘアーだった。


「そう、キミだよ。 今、フリーかな?」


「今はそうだよ。 別の国でギルドに入ったいたけど追い出されたばかりだし」


(彼女はおそらく黒魔術師か……。 だけど、前にいたギルドの奴らとは違って信用はできそうだけれど……)


 彼女の問いに答えるケリンは、少女の装備している杖の種類から黒魔術師ではないかと推測していた。

 雰囲気上では一応信用はできそうだが……?


(初対面なのにダイレクトで俺だけに狙いを絞って声をかけてるあたり、怪しいんだよなぁ)


 他の冒険者に目もくれず自分だけに声を掛けたという件で未だに警戒心は解けずにいた。


「あー、いきなりだったし警戒されて当然か。 ボクはこの町を拠点として活動しているギルドマスターなの。 キミに声を掛けたのはクエストの帰りに道中のモンスターを狩りながら町に向かうキミを見たからなんだよ」


「え、あれ見てたの!?」


「うん、遠くからこっそりと。 あの身のこなしでキミは剣士だろうなって分かったんだ。 丁度、ボクのギルドには剣士が居なかったしね。 でも、キミが他の国からの依頼のついでで来た可能性もあったからね。 だから確認の為に声を掛けたの」


(ああ、それでか……)


 町に入る前の戦闘を遠くから見ていたという少女の理由に納得がいった。

 戦士がパワータイプなら、剣士はスピード・テクニックタイプのジョブである。

 おそらく彼女のギルドは戦士はいるが剣士が今まで居なかったのだろう。

 ただ、彼が別の国のギルドのクエストのついでなのかも知れなかったため、まずフリーかどうかを聞いたのだろう。


「今はフリーならさ、ボクのギルドに入らない?」


「いいのか?」


「うん。 さっきも言ったけどボクのギルドには剣士がいなくてね。 それで困ってたんだ。 だからキミが入ってくれると助かるよ」


 少女のお願いに近い内容に、ケリンは考える。 隣国に来ていきなりギルドの誘いがあった事にびっくりした。

 しかし、彼女に悪意がないことはすでに理解していたし、ちゃんとした理由があったからだ。

 本来はソロで冒険者活動をするつもりだったが、このチャンスを逃すわけにはいかないとケリンはそう考えた。


「分かった。 その誘いを受けるよ」


「やったぁ♪ ありがとう!」


 少女の誘いを受け入れる答えを出したケリン。 それを聞いた少女は、ハイテンションで喜んだ。

 ジャンプして喜んでたようで、ジャンプした時にスカートが一瞬ふわりと捲れかけた。

 ケリンがそれを見て視線を一瞬だけ反らしたのは言うまでもないだろう。


「じゃあ、早速ボクのギルドハウスに案内するよ」


 喜びのジャンプをし終えた少女は、ギルドハウスへ案内しようとした。


「ああ、頼むよ」


 ケリンはそれを了承した。 少女の後をケリンがついてくる形でギルドハウスに向かう。

 少し歩いた時、少女がふと立ち止まった。 何かを忘れていたのを思い出したからだ。


「そうだ。 自己紹介してなかったね。 ボクはアルマ、アルマ・カトワール。 見ての通りの黒魔術師だよ。 そしてアルストの町を拠点にしたギルド『スカーレット』のギルドマスターでもあるんだよ」


「俺はケリン・ストラトス。 察しの通りの剣士だ」


「うん、これからよろしくね、ケリン君♪」


「ああ、こちらこそ」


 アルマに手を握られる形でお互いの挨拶を済ます。

 ケリンは初めての異性の温もりに顔が熱くなっていたが、なんとか隠し通せたそうだ。


 こうして、隣国リーベル公国において、ケリンの成り上がりに向けた足掛かりの一つを得た。

 ここから、彼の本当の冒険譚が幕を開けるのだ。 新たな仲間となる『スカーレット』の者と共に。

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