歓迎会(前編)
「では、剣士であるケリン君の加入を祝って……」
「「「かんぱーい!!」」」
歓迎会の会場となったギルドハウスの広場で、ギルドマスターであるアルマの乾杯の音頭によってケリンの歓迎会がスタートされた。
子供たちも一緒なので、酒は用意されず、お茶かジュースで乾杯をしていた。 食べ物もかなり贅沢なメニューが揃えられている。
(流石はAランクギルドってところか。 稼ぎもすごいんだろうな。 所得税はかかるだろうけど)
ケリンはそう思いながら、目の前にある食べ物をじっくり食べていく。
『サテライト』時代では味わえなかった美味しい食べ物で舌鼓を打ちながらじっくりと味わっていた。
「ここのご飯、美味しいでしょう?」
食べている時に不意に声を掛けられたケリンは、声のした方向へ向く。 そこには、茶髪ポニーテールの少女が、ケーキを乗せた皿を持ちながらこっちへ来たのだ。
「え、と……。 あなたは確か……」
「はい、アイシア・クレセントといいます。 職業は防御重視のタンクの役割を持つ『騎士』です。 よろしくお願いしますね」
「こちらこそ……。 こうして話すのは初めてでしたね」
「ええ、せっかくですからちゃんとお話ししたいと思ってました」
歓迎会の前に、アルマによって簡単に紹介された少女の一人、アイシアが話しかけて来たのだ。
やはり、これから仲間になるのだからちゃんと話しておきたいのだろう。
「ケリンさんが、エリクシア王国内にいた時はあまりいい思い出がないと聞きましたが……」
「事実ですよ。 入るギルドを勝手に決められ、入れられた先が脳筋主義のギルドだったのですから」
「拒否権は……?」
「ありませんでしたよ。 冒険者の多くは不満を持っていましたが、国王のルールでそうなってますから」
ケリンがそこまで言うと、アイシアの表情が曇ってきた。
「酷いですね……。 本来、冒険者は活動の自由が与えられているはずですよ。 ギルドに入るのも自由、ずっとソロで行くのも自由なのに。 ギルドの勧誘もされる側の同意がないとダメと言った人権も保障されるはずですが……」
アイシアがエリクシア王国に対する怒りを込めた口調で捲くし立てていると、横から少年が話しかけてくる。
「落ち着け姉さん。 あのエリクシア王国だぜ? 冒険者連盟の批判も聞く耳持たず、冒険者はあらゆる面で国が管理すべきという主張を繰り返しながらそれを実行している国王がいる国なんだぜ」
「レラジェ……」
捲くし立てるアイシアに、レラジェと呼ばれた少年が諫める。
だが、何気にエリクシア王国を罵倒しているように感じたのは気のせいだろうか? 折角なので、ケリンは少年の方にも話しかけてみた。
「君が……レラジェだったか?」
「その通り。 レラジェ・クレセントっていうんだ。 職業はメンバーのアイテムを管理する『荷物持ち』。 よろしくな、ケリン兄貴」
「言い忘れましたが、レラジェは私の弟なんです」
「そうだったのか。 これからよろしく、レラジェ」
「今までの辛い思いをこれからの活動で発散しましょう! では、ひとまずこれで」
クレセント姉弟と話を終えたケリンは、改めて食事を再開する。
その時だった。
ケリンの足元に、幼い女の子が彼の足にギュっと抱き着いてきていた。
「どうしたのかな?」
「にーに、だっこして」
「分かった。 抱っこするから少しだけ離してくれるかな?」
幼い女の子は、ケリンの言葉を素直に聞き入れ、手を離した。
そして、ケリンが屈んで幼女を抱きかかえる。
「ん~~♪」
抱っこしてもらった幼女は、ご機嫌になりケリンの胸元を頬ずりしている。 そんな仕草を見て、エリクシア王国に残した孤児たちを思い浮かべた。
すると、また別の声がケリンの隣から聞こえた。
「おー、フィーネちゃんったらすっかりケリンお兄ちゃんがお気に入りだね~」
「あはは、そうみたいだな。 この子、フィーネちゃんっていうのか」
「うん。 あ、改めましてあたし、レナ・ハーロックって言います。 職業はレラジェ君と同じく『荷物持ち』です。 よろしくね」
「ああ、こちらこそ」
レラジェと言う少年と同じ『荷物持ち』の少女レナも、この歓迎会で初めて会話する相手だ。
幼少組のフィーネを探してきたのだろうか?
「それにしても、子供たちの扱い上手だね」
「俺もかつて孤児だったからな。 下の子の世話をよくやってたよ」
「あー、納得した。 だから子供たちが懐いてくるんだね。 まるでお兄ちゃんかお父さんみたいだから」
「そこまで大層なものじゃないけどな。 それで、こっちに来たのってフィーネちゃんを探しにかい?」
「うん、そのつもりだったけどね。 暫くの間、ケリンお兄ちゃんにお願いしてもいいかな?」
「構わないよ。 少しの間任せてくれ」
「じゃあ、お願いね。 あたしは他の年少組を見てるから」
フィーネをケリンに任せて、レナは他の年少組の方に向かっていった。
よく見ると、色々と宥めながら一緒にご飯を食べているみたいだった。
「フィーネちゃん、俺達も一緒食べようか?」
「うん」
フィーネを抱きかかえたまま、ケリンは他の食卓へと向かっていく。 そこには、アルマとリキュア、そして別の少年少女が話をしていた。
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