最悪の流れ

 アルストの町の『スカーレット』のギルドハウス内にて、レーツェルに、ギルドマスターのアルマ、そしてケリンとリキュアが座っていた。

 なお、レーツェルの隣には、冒険者連盟アルスト支部の職員、そしてリーベルの王家の養子となった、元エリクシアの第二王女と第二王子がいた。


「【剣士狩り】と【ビショップ狩り】を同時に行うなんで……。 エリクシアはどこまで腐って……!!」


「まさか、かつての愚父がそこまでするとは……」


 改めてレーツェルからエリクシアが他国に対する【剣士狩り】と【ビショップ狩り】を同時に遂行された事を告げると、アルマは不快感を示し、第二王子のカインはショックを隠せなかった。


「それらは、いつ決まったんだ?」


「諜報部隊の報告によれば昨日らしい。 議会も『サテライト』のような脳筋主義が正義の思想を持ってる議員で固められている。 だから、全会一致で可決、即施行したようだ」


「あの国王なら考えそうな事だな。 他の剣士やビショップの人はどうなった?」


「エリクシア王国以外の国の剣士やビショップの大半は、奴らによって殺されたようだ。 また、多数の連盟の支部も乗っ取られた」


「何ですって!?」


 レーツェルの口から次々と出てくるバッドニュース。

 エリクシアの手によって他国の剣士やビショップを殺害したと同時に他国の幾つかの冒険者連盟支部を乗っ取ったというらしい。

 それを聞いたアルマは、ショックのあまり立ち上がって聞いてきた。

 そして、ここでついに職員が口を開いた。


「本当の話です。 幸い、リーベル公国内は乗っ取られていないのでリーベル公国内でやり取りすればいいのですが、他国の方が大半が乗っ取られてしまった影響で、連絡が途絶えました」


 そう。

 本来の連盟は、各国に依頼の共有をするために連絡をしているのだ。

 しかし、ほとんどの連盟がエリクシアに乗っ取られた以上、連絡のしようがない。


「そういった意味では、我が国は孤立の状態だ。 エリクシアは徹底的に他国に干渉し、力ずくで脳筋主義を浸透させることが狙いだからな。 こうなった以上、連盟本部も時間の問題かもそれない」


「そんな……」


 冒険者連盟がエリクシアによって乗っ取られているという事実にリキュアがショックを隠せずにいた。

 大半の支部が乗っ取られているのなら、本部も時間の問題だというのがレーツェルの見解だからだ。


「エリクシアの現国王は、中途半端だと見られている剣士やビショップが邪魔でならないのだろうからな。 他国が批判しようとも聞く耳を持たないことでいつかはこうなるとは思っていたが……」


「スライムの件で味を占めたわけですね……。 それによって即座に決定したと」


「ああ。 孤児院解体の報告した時にも言ったが、現国王は冒険者は力が全て、そして国が管理すべきと今でも主張し続けている。 そして、脳筋主義を是としている官僚も多い。 だからこそこの流れになってしまったのだ」


 孤児院の解体もそうだが、エリクシアの国王はどうも融通が利かない性格なのだろう。

 そして、他国の批判は一切聞かない。

 臭い者には蓋をするかのように、他国の言葉をシャットアウトして、ご都合主義であるかのように今回の流れを進めて来たのだろう。


「俺達はどうすればいい?」


「さっきのような襲撃が再びある可能性もある。 ひとまずギルドハウス内で待機だな」


「そうするしかないか」


「そうですね……。 ケリン君は多少大丈夫だろうけど、リキュアは狙われたら対処できないからアレンとか他のメンバーと一緒にいたほうがいいかもですね」


 リキュアが俯いたまま何も言わない。

 アレンとコンビを組んで依頼を終わらせて帰ろうとしたときに、エリクシアの戦士に襲撃されたが、彼女自身は何もできなかった。

 突然の襲撃に漏らしそうになるくらいに恐怖に怯えてしまったのだ。

 幸い漏らさずに済み、ギルドに戻って無事に用を足せたのが救いか。


「子供たちにも外へ出ないようにしっかり伝えて欲しい。 あと、アルマ、ギルドハウスに結界をかけてくれ」


「分かりました……。 えいっ」


 レーツェルからの頼みを聞いたアルマは、無詠唱で結界魔法を展開した。 彼女の高い魔力による結界なら『サテライト』クラスでも破ることは不可能に等しい。


「これでしばらくは凌げるかもね。 ひとまずお休みしようか」


「そうだな……。 行こう、リキュア」


「は、はい……」


 リキュアは、ケリンに手を繋がれて多少驚きはしたものの、顔を赤らめてそのまま部屋まで同行した。


「今回は、特別にリキュアとボクと一緒の部屋で寝よう。 丁度三人部屋があるし」


「まぁ、仕方がないな。 リキュアの状況じゃあな……」


 一度部屋の前に着いたものの、不安そうなリキュアを見たアルマは、ケリンに提案をした。 気まずそうな感じのケリンだったが、リキュアの状態を見て了承した。

 その夜は、三人で一緒に寝る事となったのだ。

 これから先の不安を抱きながら……。

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