対スライム戦(後編)

「リキュア、もう大丈夫なのか?」


「ええ、今まで理不尽を受けたケリンさんが頑張っているのに私だけがずっと落ち込んでいる訳にはいきませんから」


 遅れて駆けつけたリキュア。

 ケリンは今までの彼女の精神的ダメージを心配して声を掛けたが、当の彼女はいつまでも落ち込んでいられないと自ら奮起した。


「無理はしちゃだめだよ。 とにかく思った以上にスライムは大きかったから、リキュアは応援に来てくれた二人のビショップの人たちと一緒にサポートして」


「うん、凍結に成功したから、次はスライムのコアを摘出するんだよね。 任せて! 三人ならすぐに出来るから」


 アルマとリキュアが打ち合わせをし、それぞれの持ち場へ動く。

 そして、アルマとアレンが凍結したスライムに威嚇攻撃をし始める。


「凍った状態のスライムでも、溶解液の攻撃は可能だからな。 摘出中は俺らが足止めしねぇとな!!」


「そういう事。 ボクの魔法も調整すれば足止め可能だしね。 コアを摘出し始めたらケリン君、お願いね」


「ああ、コアと繋がってる器官を素早く斬ればいいんだな?」


 アレンとアルマ、後のメンバーでスライムの攻撃を阻止するために威嚇攻撃を放つ。

 後方でエリューシアが能力アップの魔法を掛けてみんなを強化している。


「準備完了しました!」


「こっちもです!」


「よーし、同時に行きますよ! 悪しき核を取り出せ!

【エクサイズ】!!」


 リキュアを筆頭に三人のビショップが同時にスライムに【エクサイズ】の魔法を唱えた。

 これはスライムのようなコアを取り出して破壊するタイプの魔物用の魔法で、器官ごと体内から引っ張り出す。

 そこにスピードに長けた剣士の技でコアを繋ぐ器官を斬りつける事でようやく摘出が完了するというわけだ。

 スライムなどの魔物はこうして倒すことが正規のやり方なのだ。

 そして、そのコアは凍結した身体の一部から、器官ごと抜きだされた。


「今だよ、ケリン君!!」


「よしっ! いくぞっ!! 【レイザースラッシュ】!!」


 スライムが溶解液で阻止しようとするよりも、ケリンの剣技が先に勝った。

 ケリンの素早い連続剣によって、スライムのコアを繋いでいた器官がぶつ切りにされていく。


「ピギイィィィぃ!!」


 器官を切り刻まれたスライムは、悲鳴を上げてドロリと溶けていく。


「アレンさん、止めは任せるわ!」


「よっしゃ! 任されたぜ!!」


 リキュアが摘出したコアをアレンの方に投げつけた。

 アレンは斧を構えてコアに目掛けて振り下ろした。


「どっせぇぇぇい!!」


 アレンの斧の一撃で、コアは見事に真っ二つに割れた。

 器官から離され、真っ二つにされたコアはそのまま砂になって消えた。


「終わったね……」


 それを見届けたアルマがぼそりとつぶやく。


「ああ、なんとかなったな……。 リキュアのおかげで……」


「ケリンさん……」


 ケリンがリキュアのおかげと彼女を褒めたことで、横にいたリキュアの顔は真っ赤になった。


「でも、ホントによかったよ。 無事にスライムを倒せたし、リキュアも立ち直ってくれたしね」


 アルマもケリンと同じ意見だったようで、リキュアを抱きしめて喜んでいた。


「とにかく、陛下に討伐完了の報告をしないといけませんね。 後始末もありますし」


「そうか、アイシアの盾もなくなったからな……」


 そんな最中にエリューシアが、レーツェルに討伐完了の報告をすることと、スライム戦の後始末をしないといけないことに言及した。

 そこでケリンは、アイシアの盾がスライムの溶解液で溶かされてしまったのを思い出した。


「報告はマスターのアルマと俺がするけど、アイシアの盾はいくらで買った代物なんだ?」


「姉さんの盾は、確かリーベル領内の鉱山町『ステイシス』で3万ゴールドで買ったって言ってたなぁ……」


「ああ、ミスリル鉱山に近い町ね。 確かにミスリルはオリハルコンに次ぐ高価な金属だしねぇ」


 後方で荷物のチェックをしていたレラジェが、アイシアの盾について教えてくれた。

 それを聞いた同じく荷物のチェックをしていたレナは、鉱山の町とミスリルの相場について言及した。


「となると、盾は一度『ステイシス』に行ってからになるね。 陛下に報告した後の報酬次第になっちゃうけど」


「構いません。 暫くは安価の青銅の盾で凌いでみせますから」


 アルマがアイシアの盾についてのプランをアイシアに伝えた。

 アイシア自身は、その間は青銅の盾で凌いでみせると言った。

 盾は基本的に『騎士』の生命線であるので、強い盾があればあるほど優秀なタンクとなるのだ。

 最もアイシアは防御系スキルも持っているので、青銅の盾でもある程度渡り合えるのだが。


「よーし、とにかくみんなお疲れ様! 疲れてると思うから早くギルドハウスに戻ろう! 報告もギルドハウスで行うね」


「では、私達もここで失礼します。 こちらでも報告をしておきますね」


「お疲れさまでしたー」


 アルマの一声の後、公国から助っ人に来てくれた二人のビショップに別れを告げて、『スカーレット』のメンバーは、ギルドハウスに戻っていった。

 こうして、スライムとの戦いは一応の幕を閉じたのだ。


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