その頃のアイシア達~依頼の確認~

 一方でその頃、『スカーレット』の他のメンバーの一部は、ミスリル鉱山の町の『ステイシス』に向かう途中だった。

 鉱山の町『ステイシス』は、王都からは数時間で着くがアルストの町からはかなり遠く、途中の農村『アイギス』での一泊が必要になる。

 今回のメンバー……アイシア、レナ、そして別の白魔術師と黒魔術師と戦士の5人がその農村に一泊をすることにしたのだ。


「さて、今回の依頼の内容を確認しましょうか」


「えーっと、確かミスリル鉱山に巣くう魔物を退治して、鉱山を解放して欲しいという内容でしたか?」


「はい、そうですよ、オレギ君」


「……エリクシアの呪縛から……逃れたと思ったら……、今度は魔物……。 不運ハードラックと……ダンスっちゃった?」


「マヤノさん……、最後は流石に不味いかと……」


「アイシアさん?」


「あ、何でもないです。 話を続けましょうか」


 まず、内容の確認のために答えたのは、『戦士』のオレギ・シュラーク。

 喋り方が途切れ途切れで、時折変なネタを交えてアイシアに突っ込まれた掴みどころがない少女が『黒魔術師』のマヤノ・クラインだ。

 

「それで、アイシアさん。 今回、巣くっている魔物の種類とかは判明しているのでしょうか?」


「連盟経由で伝えられた情報しか分からないのです。 私達が実際に鉱山内に入り込んで確かめるしか術はないかと」


「悪魔族の線を予想したのですが……、さすがに連盟でも分かりませんか……」


「何せ中に入ろうにも内部に毒の霧が漂っているので、普通の人では入れないらしくて……」


「なるほど、それで私の『白魔術』とアイシアさんの『騎士』の防御スキルで突破するのですね」


「ええ、『スカーレット』内ではルーデシアさんしか、対毒バリアを張れる人がいないので……。 そこに私の防御スキルを発動させて毒霧まみれの鉱山を突破しようかと……」


 そして、今回の依頼の詳しい内容を話し合っている相手は、『白魔術士』の少女、ルーデシア・タリスマンだ。

 なお、彼女とマヤノとギルドにいるスタッフの女子は、オレギのハーレムグループとして形作られている。


 ギルド『スカーレット』内でも彼女しか使えない対毒バリア魔法だが、実は世界から見ても使える白魔術士は少ないという。

 ルーデシアが使える対毒バリア魔法は、ある種のレア魔法なのである。

 彼女の魔法に、アイシアの防御スキルを重ねて、毒霧まみれの鉱山を進めて行こうという話だった。


「内容については理解しました。 それでいきましょう。 しかし、話は変わりますが、このタイミングでドラゴンが現れたなんてにわかに信じられないですね」


 鉱山の町『ステイシス』での依頼内容と遂行方法を理解したルーデシアは、話をドラゴンの件に切り替えた。

 アイシアもそれに合わせて応じる。


「私も道中でアルマから水晶玉からの魔法通信で聞かされた時は耳を疑いました。 しかし、彼女の母が作った精度の高いファミリアが発見したみたいですからね」


「サンダードラゴンでしたっけ?」


「報告では、そうみたいですね。 最北端の町『オルガスタ』を空中からの電撃で壊滅させたとの事です」


「空中から……。 むむ、分の悪い賭けに……なりそう……」


 町ひとつを空中からの電撃で壊滅に追い込んだサンダードラゴンにマヤノは分が悪いと言ったが、実際その通りである。

 現在の世界の文明的に、サンダードラゴン等の空中から仕掛けてくる者に対する策が、ほとんど無いのが現状だからだ。

 アルマ辺りの魔術師なら、空中でも魔法で対応できるが、世界的に見ると極少と言ってもいいレベルで対空に乏しいのだ。


「レーツェル殿下は、大公様と一緒に各国に協力を依頼するつもりみたいです。 ですが……」


「アレックス帝国ですね? マスターから聞きましたが、そこから追放された双子が保護しているとか」


「その後に向こうのギルドの脱退手続きが終わったから、正式に『スカーレット』の一員になったそうですよ。 ちなみに職業はケリンさんと同じ『剣士』のようです』


「そうなんですね」


「会うの……楽しみ……」


 途中でアレックス帝国の話になり、双子の件で正式に『スカーレット』の一員になった事を知ったマヤノは、双子と会うのを楽しみにしだした。

 アイシアは話を続ける。


「そのアレックス帝国のギルドは即戦力至上主義らしく弱い双子が邪魔だったようで、双子でも冒険者になりたい者を受け入れ、育てろと考えている現在の皇帝、ならびにその皇帝を支持する冒険者連盟に反逆の意思を示しているため、ドラゴン退治の協力は取り付けるのが難しいというアルマからの話です」


「反逆……、クーデターでも起こすのか?」


「前皇帝の主義に染まったギルドですからね。 可能性はあるかもですよ。 前例もありますし」


 オレギが言ったクーデターを起こすのではという懸念の発言を、アイシアは否定しなかった。

 即戦力至上主義の帝国のギルドが、現在の皇帝と冒険者連盟を目の敵にしているのであれば、いつクーデターが起きてもおかしくはない。

 また、帝国のギルドは元からドラゴンのような驚異への協力要請には頑なに拒否をしてきた前例もある。

 なので、今回の協力も無理だろうとアイシアは考えていた。


「アルマは、ドラゴンには気を付けながら依頼を遂行してほしいとの事なので、そろそろ寝ましょうか」


「そうですね……って、あれ?」


「どうしました?」


「何か、こっちに近づいて来ます」


 一眠りしようとしたアイシア達だが、ルーデシアがこっちに来る存在を見つけた。


「な、あ、あれは……!」


 近づいてくる存在が明らかになった時、アイシアの顔が青ざめる。


「さ、サンダードラゴン……!」


 この状況でまさかサンダードラゴンに出くわす事になるなど、想定してなかったアイシア達は、皆顔を青ざめた。


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