アイシアという少女(前編)

「ふぅ、こんなものか」


「お疲れ様、ケリンさん」


「ああ、アイシアもな」


 アルマとのデートから三日経過した今日、アイシアと一緒に依頼を遂行していた。

 今回の内容は、ブラックボアと言う魔物が北の湖周辺に出現したという事で、討伐に向かう事にした。


「ホワイトボアと違って魔法が使えるから苦労したな」


「そうですね。 このミスリルの盾のおかげで凌げましたけど……、情報収集を怠った私のミスですね」


「アルマかエクレア辺りを魔法要因として連れて行くべきだったなぁ」


 ブラックボアは、猪型の魔物の中では魔法が使える種であり、対する二人は剣士と騎士なので少し苦戦した。

 というのもあまり突進はせず、離れた距離から魔法を撃ってきたからだ。

 アイシアのミスリルの盾で魔法攻撃を防ぎつつ、ケリンの剣技でブラックボアを斬り伏せ、時折アイシアの槍で残りを倒すスタンスでようやく殲滅できたのだ。

 魔法職のアルマやエクレア辺りも連れて行けば違った結果になっただろうが、今となっては結果論にすぎない。


「とりあえず、こいつの牙を緑のインベントリに入れてしまおう」


「そうですねー」


 話を切り替え、二人は緑のインベントリに討伐の証であるブラックボアの牙を入れた。


「そういえば、ケリンさんはアルマからあの話を聞きました?」


「あの話?」


「『一夫多妻制度』の事です」


「あー、確かに聞いた。 君やリキュアの感情も同時に」


 インベントリに詰め終わった後で、アイシアから『一夫多妻制度』の話を聞いたかどうかを尋ねた。

 ケリンがアルマから聞いた話なので、肯定の答えを示した。


「でも、アイシア自身はいいのか?」


「いいんです。 私もケリンさんを支えたいというのはアルマもリキュアも知ってますから」


「君がいいのならそれでいいか……」


 改めてアイシアにいいのかと確認を取ったが、彼女自身は納得しているのと、それをアルマやリキュアが知っているという事でこれ以上は聞かないことにした。


「私は、別の国……アロウズ王国の出身で、元々『戦士』と『荷物持ち』の家系の生まれなんです」


「アイシア?」


 そして、アイシアが自分の家の事を話し始めた事にケリンは驚いた。

 彼女は話を進める。


「父が『戦士』で母が『荷物持ち』で、結婚前からずっとコンビを組んで活動していました」


「アイシアの両親も冒険家だったのか」


「はい。 私が生まれて二年後に弟のレラジェも生まれました。 そして私が12歳の時に職業判定の儀式があって……そこで私は『騎士』だと判明されました。 なお、レラジェは母と同じ『荷物持ち』でした」


 アイシアの家系が『戦士』ならびに『荷物持ち』である中から生まれた娘が『騎士』であったことが判明した。

 こう話す彼女は暗い表情をしていた。


「エリクシアで無能扱いされた『剣士』のような感じか?」


「逆ですね。 アロウズ王国は『騎士』がレア扱いにされていたらしく、私が『騎士』だと判明した直後から見合いの依頼が頻繁に入ってきました」


「マジか。 それはそれでかなりキツイな……」


「はい。 私は私自身が好きになった人と結婚をしたいと思ってましたから。 両親も無論断り続けていましたが……」


 アロウズ王国は、『騎士』が全くいない国らしく、アイシアが『騎士』だと判明した瞬間に多数の貴族から見合いが頻繁に依頼されたようだ。

 アイシア自身は普通の結婚がしたいという願いがあり、両親も見合いを断り続けたのだが……。


「でも、国王から強制的に見合いに応じろと言う達しが来たことで、この国を出る事になりました。 行き先は両親の友達がいるリーベル公国でした」


「その友達というのは?」


「アルマの両親でした。 私と弟はアルマの両親がいるギルドに預け、両親はそのまま行方をくらませました。 今思えば処刑覚悟で私を逃がしてくれたのでしょうね」


「アルマの両親のギルドって……?」


「今の『スカーレット』ですよ。 昔は名前が別でしたが……。 私はそこでアルマと一緒に活動していました」


 アイシアの話を聞く度に、国王がろくでもない性格の国があるなんて思わなかったとケリンは怒りを感じた。

 人の意志を無視して見合いを応じろと言うなんて正気を疑う。

 両親は処刑を覚悟で、リーベル公国にアイシアを逃がし、アルマの両親に引き取られたようだ。

 そして、当時は別名だった『スカーレット』の前身のギルドでアイシアは冒険者として頭角を現したのだとか。


「でも、それが仇となってリーベル公国にアロウズ王国が攻めて来たんです」


「アロウズ王国が?」


「はい、私を取り返すためにでした……」


 アイシアが俯きながらさらなる辛い話をする。

 ケリンはそれを聞いてあげるしか出来ることはなかった。

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