第8話

「学園生活はどうだ?メアリー」

王妃様は優雅に訪ねます。


「はい…私引っ込み思案なのか友だちができなくて…」

「メアリーは王太子の婚約者だというのが皆に知れ渡っているからな…」


アムルは私の膝に乗ってくれていて

静かに触らせてくれています。

…慰めてくれているのかしら…


「なかなか話しかけづらいだろうな…」


そうなのかしら…

皆私を遠巻きに見て何か話しているような気がするのです…私ったらすごく嫌われてしまっているのでは…


王妃様は自分もなかなか友人ができなかったことや何かふとしたきっかけで友人ができることもあるとアドバイスをしてくださいました…


でも…結局そこから2年経っても私に友人と呼べる人ができることはなかったのです…



「メイ…知らなかったのか。」

知りませんでした!!

婚約者同士は挨拶として性器を触り合わなければならないなんて!!




今まで知らずにしてこなかった…!

5年経った今殿下に言われて初めて知ったのです…私ったらなんて世間知らずなんでしょう…

恥ずかしい…

私…世界情勢と新聞以外の書物は恋愛小説しか読まないのです…

お友達もいませんし…

世間の常識に疎いのだわ…



馬車で学園に向かう中

婚約者の挨拶を終えた私の肩を殿下はそっと抱き寄せました。


「メイ…」

殿下は甘い声で私を呼ぶ…

「殿下…」



「殿下ではない…ウィルと呼べと言った…」



…私なんかがそんな親しげにお名前をお呼びしていいのかしら…?

今は挨拶後で盛り上がっているからそうおっしゃっているのでは…


私たちは小さい頃に決められた婚約者同士…

王族は世継をたくさん作るためにも側室を何人か迎えます。

今の王様は王妃様とはお互い信頼し合った関係で男女の情はそこにはなく、王様の愛情は側室の方に注がれているそうです。


ウィル様と私もきっとそうなる事でしょう。

私を正妻にして学園生活などで見初めた方を側室にするのかな?と思います。

王太子妃のお仕事は私がしなければいけないのよね

ずっとお勉強してきたし…!

頑張ろう!!






私はさり気なくウィル様の手から抜け出して向かい合わせに座り直し外を眺めます。


なんだか…

肩を抱き寄せられるなんて…まるで恋仲のようだわ。ソワソワしてしまって落ち着かない…


ハァ…

いやだな…

学校行きたくないな…


私は学校に行きたくない…

登校拒否したいのですが…

ウィル様が毎日迎えにくるので行くしかないのです…



なんで迎えにいらっしゃるのかしら…

来なくて…いいのにな…



学校に行ってもまだ友だちもいないし…

私は気付かれないようにそっとため息をつく。



ふと気がつくとウィル様と足がぶつかっています…

私は足を投げ出しすぎたかな?とできるだけ足を自分の方に寄せました。


ウィル様は足が長いから窮屈なのね…

私はほぼ体育座りのような格好になってしまいましたが、ウィル様は王族…失礼があってはいけません…!私が最大限努力しなければ…!!

彼の足に当たらないように気をつけます。


今までこんなことあまりなかったのに…

最近ウィル様は背が伸びたのか足や身体がぶつかってしまうことが増えて申し訳ない…

私って少しふくよかなのよね…

胸も服いっぱいに詰まってるし

お尻でスカートが止まったりしてしまう…

太腿もその名の通りとても太いのです…!



ウィル様はまだ場所が足りないようで私の足に自分の足を絡めてこられます…!

そ…そんなに私ははみ出てしまっているのでしょうか…!!

ふくよかだから…!!

私…自分が思っている以上に…

もうふくよかと言うより太ってるのかしら…?

自分への表現が甘すぎるのかもしれません…!




…これ以上避けられない…!


「ウィル様…すいません…

どうしてもぶつかってしまいます…

私……ふ…ふく……大きいのかもしれません…

私…明日から一人で登校いたしますね

こんなに場所を取ってしまい…恥ずかしいです…」

と言うと


ウィル様は足を引っ込めて


「か…構わん!ぶつかっても…

一人で登校することは許さん…」

と優しいお言葉…

なんと慈悲深い…


「ご慈悲感謝いたします」

私はペコリと頭を下げる。


するとウィル様は私の隣に座って来られます。

足がぶつかるのを気にしてる私を気づかってくれたのかしら…慈悲深いわ…


ウィル様は私の顔にぐいっと顔を寄せて

私の口を吸おうとしてきます。


私は慌てて顔を避けて


「ウィル様…いけません…!

それは好いてる者同士ですることなのです…!!」

と顔を赤くして言いました。

恥ずかしい…!!


「…婚約者同士の挨拶だ…」

ウィル様はそうおっしゃいますが…


「いいえ…!私これは知ってるのです…!小説などでもよく見ます!

これは好いてる者同士するのですよ!

キスというのですよね?

ウィル様も好いてる人となさってください!

婚約者だからと無理にしなくても良いのですよ?」


私は顔を赤くして俯きながら小さな声で言う。


ここは道が悪いのかしら…?

ガタガタすごく音がするわ…





キスというのは愛がないとできないのよね!

それは甘くて切ないのよ…


愛がない性交渉のときはしないのよね!

じゃあ私は一生することないのかしら…キス…


どんな感じなんでしょう…!

ホントに甘いのかな?

私はキスの心地が気になってぼんやりしてしまいます。

なんで甘いんだろう?

どこで味を感じるの??

一度でいいから好きな人としてみたい…

もし好きな人ができたらコッソリしてみちゃおうかな…?

ウィル様も他の人としてるのかしら…私も一回位いいかな?

私はドキドキしてしまいチラリとウィル様の様子を伺います。


ウィル様はこちらをちょうど見ていたタイミングだったようで目が合ってしまいました…!

私は邪なことを考えていたので少し気まずい…


私は目をそらし慌てて俯きました…




学園に着き馬車を降ります。

すると

「ウィルー!!」

1人のかわいらしい女生徒がウィル様に駆け寄って来られました!

今までこんな事はなかったので私は動揺してしまいます。

恐らく今年入学してきた新入生でしょう…

そんな…

殿下を愛称で呼んで…!

すごく親しい間柄じゃないの…!


私は遂にこの日が来たのだ…と思います。

私は未来の王妃…

どんな事も大きな心で許容しなければ…!

ちらりと空を見上げ

私は…ペコリとお辞儀をしてその場を後にしました。


心臓はドクドク音を立てていて

私はなんだか…嫌な気持ちになってしまったのです…



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