第2話

あのお茶会から暫く経つと王宮に呼び出されました。

なぜかしら…

私は最大限おめかしをさせられていて

ヒラヒラでフワフワのドレスを着ています…


似合っているのかな…

私にはよくわからないわ…


私は玉座の間に招待されているので長い廊下をまっすぐに進みます。

お父様は顔を強張らせ

お母様がソワソワしている…

「ポリー失礼のないようにね」

「はい。お母様。」

大体なぜメアリーの愛称はポリーなのかしら…

全然関係ないような…

私はメイの方がいいわ…


廊下には光が射し込んでいてとても明るい…

床は大理石かしら…

カツコツと心地よい音がする。


すると向こうからコツコツと誰かが歩いて来る。

「殿下…!」

お父様が立ち止まり頭を下げる。

それに習いお母様と私も同じように頭を下げた。


「頭を上げてよい。」

凛とした声が廊下に響く。


私と同い年なのに堂々としてらっしゃる…

王族はすごいわ…


私たちは頭を上げる。

殿下は私の前にお越しになり

手をそっと出した。

お母様が息を飲む音がする…

…え?何かしら…?

これは私が手を掴んでいいの…?


「…エスコートをしたい…」

殿下が俯き加減でそう私におっしゃいます。

お母様が焦ったような口調で

「ポリー…殿下をお待たせしては…」

私はそれを聞き慌てて殿下の手を握りました。


殿下はホッと息を吐くと私を玉座の間まで連れて行ってくださいました。

重厚な扉が開くと高い天井と広い空間が広がり

立派な柱が数本立ち並んでいます。

その一つ一つが美しく装飾されていて目が眩んでしまう…

高級感のある絨毯を踏みしめて私たちは前に進みます。

玉座には王様が腰掛けていらっしゃる…

私は心臓がドンドコ音を立てていて飛び出してしまいそう…


「父上…連れて参りました。」

私は頭を下げる。

「ふむ…顔を上げよ。」

低く美しい声が広い空間に響き渡ります。

何も考えていなくても顔を上げてしまいそうな…

全て言うとおりにしてしまいそうな…

力強く不思議なお声です。


「よく来たな。」

王様は私の後ろにいる両親にも声をかけました。


「お声掛けいただきありがとうございます。」


殿下がこちらを見てる…?

視線を感じます…

うう…これから何が起こるのでしょうか…


「先触れにも記したが…お前の娘を我が息子の婚約者としたい。」

お父様は深々と頭を下げて

「ありがたきお言葉でございます。」と言いました。


え!

私知りません…

しかもお手紙で知らされていたなら…言って欲しかった…!!!

なぜこんな事をサプライズするの…!


「それではこれからよろしく頼む。」


私の人生を変える衝撃的な出来事はものの数分で終わり今客間に通されて殿下と二人お茶を飲んでいます…

両親は手続き?をしに行かれました。


「メイ…これは好きか?」

殿下は私の隣に座り

ドンドンお菓子を口に入れてくださいます…

今はチョコレートの染み込んだケーキです…

上に生クリームが乗っていて…すごくおいしい!


「はい…」

「さっきのと今のならどちらが好きだ。」


「今の方が好きです。」


「メイは…チョコレートが好き…」

殿下はなにやらブツブツと呟いてらっしゃいます。


殿下はカップにお茶を注いで私の顔に近づけます。


「香りを嗅げメイ…」

私は素直にスンスンと鼻を鳴らします。


「好きか?」

「はい。とてもいい香りです。」

紅茶の奥に仄かに柑橘のような香りとお花のような香りを感じます。

「メイは…この産地のお茶が好き…」

殿下はひとり言が多めです。

頭の良い男性はひとり言が多くなる傾向にあるそうなので殿下もそうなのでしょう…


私はミルクの入ったお茶が好き…

ミルクで煮出すより後から入れたい派なんです…

さっぱりとしていてかつクリーミーで飲みやすい…

ミルクで煮出すと美味しいのですが

私には濃ゆいのですよね…


「ミルクを入れるか…」


私がちらりとミルクを見たのに気付いたのか

そんなお声をかけてくださる殿下…!


「勿体ないお言葉でございます…」

私が頭を下げると

「大袈裟だ…メイ…」と言いながらミルクを注いでくださいました。


殿下はカップを口に当ててくれるので私はそれをコクリと飲みました。

「早く大人になりたい…」

殿下はそうおっしゃいます。

私は子どもが楽かも…お仕事は大変そう。


「私は…このままでいいです…」

「メイ…」

殿下が私を見つめて来られます。

殿下の目はうるうるしていて

とてもキレイ…

カエルの背中みたいです…

お庭にはもう青いカエルはいなくなってしまったけど、緑のカエルはちゃんと残しておいてくれたので時折雨上がりには葉っぱにカエルが乗っていたりします。

殿下は金色の瞳をしてらっしゃるのね…

うちのカエルの目も金色…


殿下の髪の毛とお揃い…


殿下も私の目の色を見ているのか私たちは目を合わせたまま暫く静かにしています…

するとトントンと控えめなノックの音がして

殿下はソファに腰を下ろしました。


殿下ったら…立ち上がってらっしゃったのね!

私はそうとは知らず殿下は随分と座高が高いわ…と思っていたのでクスクス笑う。


殿下はノックに返事をしてこちらを見ると

「…早く大人になりたい…」

そうもう一度おっしゃいました。

やはり王族の方は志が高くてらっしゃる…

早く政治活動をされたいのでしょうね…!


ノックは私の両親の迎えだったようで

私は殿下に丁寧に挨拶をすると馬車に乗り帰宅いたしました。

帰り際殿下はまたたくさんお土産を詰めて渡してくれて、今回はチョコレートの染み込んだケーキと丸いチョコレートをたくさん入れてくださいました。

カードは今回も入っていて

『また誘う』と書いてあります。

次はいつかしら…楽しみだわ!



帰り道お母様が

「王族は側室を持つから…ポリーはその方々とも仲良くしなければね。」

と私の頭を撫でておっしゃいました。

私はそうなのか…と少し寂しい気持ちになったものです。

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