第42話

「人の皮でできた…

あの…呪術師が書いたと言われる本の事でしょうかな?」

「はい。それが見たいのです。」

私は以前魔術師様がウィル様に見せていた本…あれが見たくて今日はこちらを訪問いたしました。


「王太子妃殿下。この手袋をおはめください。」

魔術師様は白い手袋を私を渡してくださいました。


「聖なる加護のついた手袋でございます。この本の呪いを跳ね返してくださるでしょう。」

私は手袋をはめて本をめくる。

よ…読めないわ!!謎の言語…!!

「翻訳いたしましょう。南の言葉はあまり浸透していませんので…」

魔術師様が本に手をかざし、呪文を唱えると

先ほどは読めなかった文章が言語化されて頭に流れ込んでくる…

魔術…すごいわ…


私は少し心に引っかかっている事がございまして…

エドワード殿下が敵外国の女王様のところに行かれた際に王妃様がポツリとおっしゃったのです。

「エドは親の愛を知らん。こちらでも愛を知らずあちらでも苦しい思いをしたら…」と涙ぐんでいらっしゃり私はその背をそっと撫でました。

エドワード殿下は…一番最初の側室様のご子息だわ…


側室様は王様と学園で出会い見初められたのですよね…

そして、彼女は貴族ではあるけれど身分が低い…

この王宮から追い出されたくないと必死で王の寵愛を求めたはずだわ…


しかしエドワード様を生んでしばらくすると王様は別の側室を連れて来られた…


それからは離宮に引きこもられて塞ぎ込んでいたと聞いているわ…


…側室様は王様を愛してらしたのね。

エドワード様は…王様によく似てらっしゃる…

愛が憎悪に変わった時…それは…



私はパラパラとページをめくる。

「…これは…」

「これは通常は虫や動物などで行われる呪術ですな。

大きい物になればなるほど呪いの力は強くなるので、それを応用したのでしょうか…」


そこには呪いたい相手と血の繋がりのある子どもを飢えさせよ。と

飢え渇望させてその憎しみが相手に向けばその血族の血は絶たれるであろう。そう…書いてある。


…側室様がもしエドワード様のお世話を放棄して食事をまともに与えていなかったら…エドワード様は飢えたでしょうね。

そして、その憎しみは…誰に向いたのかしら…

側にいる母親?

あまり顔を合わせた事のない父親?

王妃様…?

…それとも…自分と半分だけ血の繋がって恵まれた環境にいるウィル様…



私は涙が溢れて止まらなくなる。

エドワード様はさぞ辛かったでしょう。

もし、そんな事があったとして…

小さい子どもが…人を憎む程苦しむなんて…


ウィル様が…お疲れになった今…その呪いがウィル様を襲ったのだわ…

今までもずっと呪いは続いていた…

ウィル様が跳ね除けていただけで…





私は気を落ち着かせて

王妃様に『お会いしたい』と先触れを出します。

王妃様はお忙しい方なので、それが叶うのは暫く後になってしまいました。



私はウィル様に抱きしめられながら

「ウィル様…私、今日のお昼ごはんは王妃様といただきます。」そう伝えました。


「なに!?嫁いびりか…俺も行く…」

そうおっしゃるので私はおかしくてクスクス笑ってしまいます…

「王妃様はそんな事はいたしませんよ。

私がお会いしたくてお願いしたのです。」

「…そうか。」

ウィル様はホッと息をつくと私に優しいキスを落してくださいました。

「何か嫌なことをされたらすぐ俺を呼べよ。」





「メアリー久しいな。」

「王妃様…お久しぶりでございます。」


王妃様は自室に私を招いてくださり、向かいの席に座るよう促してくださいました。


「ウィルはちゃんとお前を大切にしているか?」

「はい。私には勿体ないくらいお気遣いいただいております。」


「そうか…何かあればすぐ私に言うのだぞ。コテンパンにしてくれよう。」

私はお二人が似たような事をおっしゃるのでおかしくて笑ってしまう。


「どうした?メアリー何か変だったか?」

王妃様がキョトンとしてらっしゃる。

「いいえ…いいえ…失礼いたしました。ウィル様も同じような事をおっしゃっておりまして…親子というものは素敵だな…と微笑ましくなってしまいました。」


「…アッハハハハハ!そうか!それはなんだか恥ずかしいな…」王妃様は高らかに笑うと顔を赤くされました。


こんなに優しい方が…

幼い頃のエドワード様のご様子を見逃すはずがない…


「王妃様…少しお伺いしたいことがございまして…」私は目の前に並べられる食事を見つめながら王妃様に切り出しました。


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