第30話

「エドワード。よく来たな。」

王妃様は学園に入学した今も僕を気遣って度々部屋に招いてくれる。

「王妃様。お招きありがとうございます。」


僕は王妃様の向かい側に腰を下ろす。


「エドワード…最近どうだ?何か困りごとはないか?」

王妃様はあの頃と変わらず美しく優しい姿で僕に問いかける。


「楽しい日々を送らせていただいております。」


王妃様は席を立つと僕の隣に膝で立たれた。

「王妃様…!」

僕は王妃様が跪かれているのに驚き腰を浮かせる。

「いいのだエドワード…」

僕は心苦しくて自分も床に跪く。


「エドワード…私とお前は血が繋がってはいないが実の息子のように思っている…」

王妃様は僕の手をそっと握りしめた。


「お前が…女生徒に自白剤を渡したな。」

「………はい…」

涙が出る…

「エドワード…私は王が私を愛してない事はなんとも思っておらんのだ…」

王妃様は悲しそうな目で僕を見ている。


「し…しかし…王太子殿下が側室を持たず一人の女性を愛することができてしまえば…王妃様のお心が…」


「エドワード…私はそれを喜ぶ事はあれ悲しむ事などない…」

王妃様は優しげな眼差しで僕を見ている。

僕は胸が苦しくて息をするのも辛くなる。


「お…王妃様は…こんなに素敵な女性なのに…」

「エドワード…」

王妃様は僕をそっと抱きしめてくださる。

「なぜ父上は…大切にしないのですか…」

「王は…移り気なのだ…」

僕は子どもように泣きじゃくりながら王妃様はそんな僕をただただ抱きしめてくれている…

昔母上に求めたものをこの人は全て与えてくれた。


本当は憎いであろう側室の子どもである僕に。


「見ろエドワード。」

王妃は僕を窓辺に連れて行く

僕は涙をポタポタ落としながら王妃に手を引かれ窓辺に立った。

そこには街が広がっていて

家や店が美しい碁盤の目に並んでいる。


「私の国の民を見ろ。」

王妃様は僕の肩を抱き街を手で示した。


「この中には私を愛してくれている者たちがたくさんいる…全員が私の愛する家族だ…」

僕の涙はボロボロと大粒な物に変わっていくのを感じた。

「王一人に愛されなくとも…私はこんなにたくさんの家族に愛されている…エドワード…お前もそうであろう?」

僕は泣きながらコクコクと頷いた。


「お前は私の愛する民である…ウィリアムの乳母の娘を唆したな…」

王妃様は僕を再び強く抱きしめた。


「は…はい…」


「許す事はできん…お前は他国の女王の元へ嫁いでもらう…」


「は…はい…」


「我が国を敵対している国だ…辛い思いもするであろう…」


「はい…うぅ…」


「辛ければ…手紙を書け…私宛にだ…」


「は…はい…」


「少しでもお前への扱いがよくなるように取り図るからな…辛ければ…すぐに書くのだ…わかったな…エドワード…」


「はい…はい…必ず…」


僕は同じ王の種である二人の王子が憎かった。

同じ父なのに…

なぜお前たちはこんなにも温かい愛に包まれているのかと…この素晴らしい女性を母と呼べる二人が憎くて憎くてたまらなかった…


「エドワード…

これからは私を母上と呼べ…お前は私の息子だ…血は繋がってはおらぬが…私の息子だ…エドワード…」



「うぅぅ…は…母上…」


「お前があちらで酷い目に合わぬよう…母が出来るだけのことをしよう…エドワード…私の愛しい息子よ…」




僕は…

もしもあちらの女王が僕を受け入れてくれたなら

全力で彼女に愛を注ごう。


僕は一人の女性をきっと大切にできる…

僕ならきっと…


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