第11話

私はウィル様とのお茶会のお土産をテーブルの上に広げます。

その中には私の好きなチョコレートが入っていて

三人分のお皿に均等に分けました。

お兄様は紅茶をカップに注いでくださっています。

すごくいい香りがお部屋に拡がります。

お兄様は紅茶を淹れるのがとてもお上手で、私が淹れる紅茶よりもずっと美味しいのです。


ちょっと遅くなってしまったけれど今日は妹の入学祝いも兼ねているのでマリーはお誕生日席に座って何もしなくていい日。


マリーは身を乗り出して紅茶のニオイを嗅いでいます。


「いい匂い…!」


お兄様が仕事帰りに買ってきてくれたケーキもお皿に載せます。

マリーが大好きなイチゴがたくさん乗ったケーキです。

クッキー生地で出来たカップの中にスポンジケーキと生クリームが重ねてあって

上にはたっぷりとクリームとイチゴが飾ってあってすごく美味しいケーキです。

マリーには3個…!

いつも全員分独り占めしたいという妹の希望を今日は特別に叶える日です。

私とお兄様は1つずつね。


「マリー!入学おめでとう」

お兄様がマリーにプレゼントを渡しました。

それは串のような形で根元に美しい装飾が施されています。

…お兄様の手作りかな…?

素敵…!

光を受けてガラス玉がキラキラと光り輝いています。


妹はそれを受け取って

「ありがとう!お兄様!これで人を刺したりできるじゃない!最高のプレゼントだわ!」と尖った部分を見て目を輝かせています。

違う…!違うわ…!

それはきっとそういう事に使うものじゃないのよ…!!


お兄様は苦笑いをしながら

「マリーこれはこうして髪を留めるんだ。」

妹の髪をクルクルと器用に巻いて髪飾りを挿しました。

すると髪はしっかりと留まり解けなくなりました…!

すごいわ…!

魔法みたい…!


「そうか!こうしておけばバレずに持ち込めるわね!お兄様ありがとう!」

なんだか…違うような…

「マリー…絶対に人を傷つけてはいけないよ…」

お兄様が心配そうにそう呟きました…


「マリー私からはこれよ。」

私は腕時計をプレゼントしました。

妹は少し自由奔放なところがあるから時間をあまり気にしないのよね。学園では時間通りに動かなければならないからこれで時間を確認してね。


「ありがとう…!お姉様!

これは?どこかから刃物が出るの?それとも毒が入ってる?ここ開くの?」

…!

お姉様はそんな物騒なものはプレゼントしませんよ!

「出ないわ!普通の時計よ…」

「あ!そうなんだ!でもかわいい!お姉様から貰うものはなんでも嬉しいわ!ありがとう!」

妹は腕にそれを巻いて

手をかざして眺めています。


ふふ…喜んでくれて嬉しい。妹は少し変わっているけどとても心優しいのよね。


「マリーどうだ?友だちはできたか?」

お兄様が訪ねます。

「うーん…私より強そうな人は何人かいたわね」

妹はケーキのイチゴをポイポイ口に放り込みながら答えます。

お兄様が自分のケーキのイチゴを妹に献上しているわ…私のもあげましょう…

マリーたくさん食べてね!


「え!ありがとう!イチゴ大好き…」

マリーは幸せそう…


「ねえ、剣術の試合っていつあるの?私それに出てみんなをボコボコにしたいのよ!」

そんな…!

ボコボコにするのはお辞めなさい…!


「全学年で行う試合よ…流石にボコボコには…」

「ボコボコにする気持ちで挑みたいの!」

私は妹の勇ましさに少しドキドキしてしまいます…

どうか…

揉め事は起こしませんように…!!!










広い廊下を側近候補である乳母兄弟と歩いていると珍しい人物に声を掛けられた。

「兄様。」

「どうした。久しいな。」

「はい。今日は入学の挨拶に参りました。」


俺の目の前には弟のエドワードが立っている。

彼は俺とは腹違いの兄弟で側室の子だ。


「そうか…今年入学だったな。おめでとう。」

「ありがとうございます。」


エドワードはお辞儀をしその場を去った。



俺は乳母兄弟に言う

「後でエドワードに祝いの品を贈ってくれ。」

「どのような物にいたしますか?」

「…任せる」

「わかった…なんでもいいが一番困るんだぞ」

俺は口の端を持ち上げる。

「他の者に聞かれたら不敬罪になるぞ。ユウジ…」

ユウジはクスクス笑いながら

「失礼いたしました。」と俺から離れて行った。


エドワード…何を考えているのかわからん奴だ。

俺たちは決して仲が良い兄弟じゃない。

アイツは王がかつて一番寵愛を与えていた側室の子。


王は移り気だ。

一番の寵愛はエドワードが産まれて暫く経つと新しい側室のものになった。

そして次々側室を増やし今は4人いる。

…エドワードの母はそれが王妃の差し金だと思っている。

違うのにな…

王は色を好んでいる。

一人の女性では満足できないのだ。


コツコツと足音が響く。

天井が高いからか…

こんな高い天井はいらん。

夏は涼しいが冬はとても寒い。

使用人達は廊下を行き来することが多い。

この国は冬が長い。

この高い天井は使用人には辛くないか…

掃除も困難であろう…



響く足音は悲しい気持ちになる。

俺は温かい彼女を思い寂しい気持ちになった。

…今何をしているのか…



静かな廊下にパタパタと足音が聞こえてくる。


「ウィル!」

その声は広い廊下に響き渡り

俺はそちらに顔を向けた。

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