第15話

つまらないわ…

なんて退屈なのかしら…


試合会場の床は硬い土で出来ていて

観覧席がぐるりと周りを囲っている。

何やらワーワーと人の声がする…

私はその音が途切れる位前の人物に集中した。

キン…と静けさの音がなる…


私は一回戦の相手と向き合い鼻から息を出した。

…その靭やかそうな筋肉…実際やせ細っているだけじゃない…何が細マッチョよ…

見た目ばかり気にして…

だから貴族の男は皆私より弱いのよ…


私だって出来ることならばお父様のような肩幅と太い腕が欲しい…

しかしなぜか私にはお腹以外には肉がつかないので太い筋肉が手に入らないのだ…


男のお前には容易に手に入るだろうに…!

私はギリギリと歯を鳴らす。



剣の構えがなってない…

全然ダメよ…!

死ぬほど練習すれば

自然と構えられるようになるはずだ…

考えずとも、目を瞑っていようとも…!


私がボコボコにして叩きのめしてやる…!!

お前のようなものが二度と騎士を目指さないように…!!






ああ…マリーが男性と向き合っているわ…!

大丈夫かしら…!!

相手はとてもスラリとしているけれど…男性なのよ…!

マリーが怪我しませんように…マリーが怪我しませんように…!!

私は手を前に組んでソワソワしてしまう。

ウィル様はそんな私の腰を抱き寄せてくれている。


力強い温もりが今はとても頼もしいわ…

私一人じゃ倒れてしまうかも…!


二人はただ向き合っていて全然動かない…

私は心臓がドクドクして外に飛び出してしまいそう…!!

マリーが剣を振りかざし駆け出したかと思うと剣を一振りした…ように見えた。

その一振りを受けた相手の剣は宙に飛んでクルクル回るとグサリと地面に刺さった。

刺さった場所が地面に座り込んだ相手の股の間だったので会場は一瞬騒然とした後大きな歓声に包まれた。


マリー!

あなたまさか…わざとそこに刺したんじゃないわよね…!!

マリーは剣を一振りして鞘に収めるとこちらを見上げ親指を高らかに突き上げると片目をつぶった。

キャー!マリー!

我が妹ながらなんと素敵なのでしょう!

とてもカッコイイわ!!



ウィル様はなんだか面白くなさそうに私を見つめて

「メイ…俺は騎士にならぬからこの大会に出ないだけで…剣術もできるのだぞ…」そう呟きながら私の口にチョコレートを入れた。

私がモゴモゴしている間にウィル様は優雅な手つきで紅茶を注ぎミルクを入れる。

いい香り…


ウィル様は少し温度を確認した後

私の口にカップを当てる。

それを素直にコクコク飲むと

カップを避けたウィル様が私の唇に顔を寄せてくるではありませんか…!!

いけません…!

「ウィル様…いけません…」

キスは好いた者同士でなければ…!!

「ここではいけないか…」

ここでなくてもいけません…!


ウィル様はキスは諦めたようで

別の種類のチョコレートを私の口に入れました。

「うまいか…メイ」

「…はい」私はゴクリと飲み込んで答える。

唇にチョコレートが付いていたのかウィル様はぷにぷにとそこを触ってらっしゃいます。


「ウィル様も飲みませんか?」

私はポットから紅茶を注ぐ。

ウィル様はそのままで飲むのがお好き…

「何も入れなくて良いですか?」

「ああ…」

私はスプーンでぐるぐるとかき混ぜて冷ます。

少しまだ熱そうなのでフーフーと息で吹いた。

ウィル様がめちゃくちゃこちらを見てる…


「あ…余計な事をしてしまいましたか…?」

「いや…今俺は手が使えない…飲ませてくれ…」

ええ?

めちゃくちゃ自由そうですが…!

なんだか謎の嘘をつくウィル様がおかしくて私はクスクス笑いながらカップを口に当てて差し上げました。


ウィル様はゴクゴク喉を鳴らしながらお茶を飲みます。

喉仏が上下している様子が見えて

なぜか胸がギュウっと苦しくなってしまいました。


私が自分の変化に動揺してドギマギしていると

ウィル様が私をギュウっと抱きしめて

「次からお茶を共にするときはこうして飲ませてもらうとしよう…」と耳元で囁きました。


…使えてる…!!

ウィル様手がとても使えてるわ…!!


でも…なんだか悪い気分ではないですね…

私はウィル様の胸に顔を寄せると

更に力を込められたので私たちはピッタリとくっついてしまいました。

会場では時折歓声が上がっていて

私はなんだか非現実的な空気にいつもより大胆になってしまってるのかしら…と今だけはウィル様の温もりに身を委ねることにしたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る