第6話

「いいか…メイ。こちらからは見えないが何人もの護衛が俺たちには付いている…安心しろ。」

殿下は私の手を優しく握るとそうおっしゃいました。

「街にいる者たちはこう手を握り合うそうだぞ。」

殿下はそうおっしゃいながら私の手に指を絡ませます。

いつもと違うエスコートの仕方になんだかドキドキ…

殿下も緊張されているのか心なしか前かがみになっていらっしゃいます。

お腹が痛くなりますよね…緊張すると…

私もなんだかお胸がキュウキュウと痛苦しいです。


石でできた道を歩きます。

なんだか少しゴツゴツしていますが道はしっかり整備されているのですね…

面白い歩き心地だわ。

「道は整備されているな。」

殿下も同じことを思っていたようでそうおっしゃいました。

「そうですね。これなら街に住まれる方々は雨などで道が泥濘んだりして困ることはなさそうですね。」


少し歩くと広い空間に出ます。

周りには建物が建ち並んでいます。

その前には屋台が並んでいて様々な商品が販売されています。

わあぁ…小説で読んだあのシーンはこんな感じなのですね…!!思ったよりカラフルな屋根で物もすごくたくさんありますね…!!

「メイ…俺から離れてはいけないぞ。」

殿下は手を握る力を少し強めました。

「はい。」

あぁ…すごくいい香り…

あの溶けたチョコレートのようなものは何かしら…?

飲み物のように見えますね…

「気になるのか?」

「はい…すごく美味しそうな香りがしますね。」

殿下はその屋台まで行くとその飲み物を購入してくださいました。

お店は年配の女性がやっていらっしゃいます。

すごく気さくな雰囲気で

「いらっしゃい!」と威勢よく迎えてくださいました。


「本当だとフルーツが入ってるんだけどね。」

「そうなんですか?」

殿下は素晴らしいコミュ力を発揮されています!

「うちの店は初めてかい?」

「はい。最近越してきたから。」

「ああ…果樹園の地域に水害があったじゃない?そこがまだ整備されていなくてね…果物があまり手に入らないのさ。」

先月あった大雨で川が氾濫してしまった水害ですね…

あまりにも被害がひどくて果樹園としてはもう利用できないのではないか…そう言われていますよね…


そうか…

その件はこうして街に住む方にも影響しているのですね…

私はとても悲しい気持ちになってしまいます。

殿下もあまり表情は変わっていませんがどことなく悲しそう…

「早く以前のように戻るといいですね…」

「だねぇ。」お店の女性はアハハと豪快に笑いました。



広場にはベンチがたくさんあって私たちはその1つに腰を掛けます。

殿下は私に木でできたカップを渡してくださいました。

すごくいい香り…

「ありがとうございます。」

「このカップは店に戻すといくらか返金してくれるそうだ。考えてあるな…」そうおっしゃいました。

確かにそれならばこのまま持ち帰ることもここで飲むこともできますよね。

そして使い回せば資源を無駄にしませんし…

「俺たちにはない発想だ…民はすごいな。」

殿下は歩く人々を眺めています。


私はカップに口をつけました。

それは温かな溶けたチョコレートのようですがなんだかチョコレートよりもサッパリしていて少し粉々しいです。

でもミルクがたくさん入っていておいしい!

なんだかお菓子よりお菓子のような味ね。

確かにここにフルーツがはいると更においしそう…

早くその飲み物が飲めるようになって欲しいですね…


「多分あの土地ではもう果実の栽培は難しいだろうな…」殿下が呟きます。

「ここの方々が果実が手に入らないのは気の毒ですね…」

殿下は少し考えるような格好をした後

「別の土地を果樹園にするか…」とおっしゃいました。



今までその果樹園で働いていた方々はどうなったのかしら…早く…新しい果樹園ができるといいな…


私たちはお店にカップを返して

殿下は小銭を受け取りました。

「殿下はお買い物もできるのですね。」すごく頼もしいです。私はお金を見たのすら初めて…!

殿下は私にコインを渡すと

「母上がよく俺たちを街に連れ出してくれたからな。民の様子がよくわかると…」

王妃様が…

やはり王妃様はこの国の民をよく見てらっしゃるのですね。

そしてこのコイン…

王妃様の横顔が浮き上がってる…

「すごいだろう…素晴らしい技術だ。

俺たちは…ここにいるような者たちに支えられているのだ…」殿下は私からコインを取ると

「危ない目に合うと困るからな…俺が持っていよう。」と言いながらまた私の手に指を絡ませました。


…この手の繋ぎ方はドキドキしてしまいます…!!!

殿下もやはり前かがみになってらして

この繋ぎ方には魔物が住み着いているわ…私はそう思いました…


屋台の立ち並ぶ広場を抜けると

建物の中にお店が入っている場所に出ました。

ここは少し客層がお金持ち向けなのか静かで落ち着いた雰囲気です。

美しいドレスなどが見えるように入口付近に飾ってあったり目を惹く工夫がたくさんです…!

「メイ…気になるものはあるか?」

「はい…」

私はガラス張りのお店の中にキラキラと光るガラス玉が並んでいるのを見てとてもキレイ…と思います。


「あちらのガラス玉がすごくキレイです。」

「入ってみるか。」


扉を開けると

そこには壁一面に並ぶ大小様々なガラス玉が…


「…」ここの店主は初老の男性で商品のガラス玉を磨いています。

職人気質な方なのね…


私は棚にある金色に輝くガラス玉を手に取ります。

「…キレイ…」


「それが欲しいのか?」

「はい。すごくキレイです。」


殿下はそれを私から受け取るとササッとお会計を済ませました。


お店を出てから

「そ…そんな…買っていただいては…」私は慌ててしまいました。

殿下はガラス玉の入った紙袋を私に押し付けると

「いいんだ…俺が君にプレゼントしたかったのだ…」と耳を真っ赤にしてらっしゃいます…

「それは何かに加工して…ずっと君に身に着けていて欲しい…その色を選んでくれて嬉しい…」

私は殿下の言葉に首を傾げつつ

ご命令とあれば…と

「はい」そう言って快諾いたしました。

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