第7話
エリザベスの母アンが、英国国教会がローマカトリックとの差別化を図り
スペイン一派を一掃しようと命がけの戦いをしていた時、
もう一人更に命がけの戦いをした者がいる。
その名はヘンリー8世。
アンの夫であり、エリザベスの父であり、スペイン王室から迎え入れたキャサリン王妃とその娘メアリーを庶子に貶めた男である
ヘンリー8世は考えた
「娘メアリーの嫁ぎ先がない以上、英国存続の為には王子を作らねばならない。もうキャサリンに子供を産む能力がない」
「もし王子がなければ、いずれスペインかフランスに英国は呑み込まれてしまう」
だから彼はローマカトリックを振り切って英国国教会を設立したのだが、
これはすなわち当時の欧州No.1国を敵に回す事を意味する
欧州No.1国とは、スペイン、オーストリア、フランドルを支配する「ハプスブルグ帝国」であり、その当主は神聖ローマ皇帝カール5世
しかもカール5世はヘンリー8世が離婚したキャサリン王妃の甥っ子だ
この事実だけで英国貴族達は戦慄が走った筈だ
「ヘンリー王はなんて事をしたんだ? 皇帝カール5世が大群を率いて攻撃してきたら俺たちはどうなるのだ?」
もうヘンリー8世はギリギリの勝負に出ていたのだが、これには勝算がある
皇帝カール5世は英国を攻撃する余裕がないと判断したからだ
その根拠はハプスブルグ帝国を超える世界No.1国「オスマン帝国」の脅威。
オスマン帝国とはトルコ騎馬民族のイスラム教徒であり
東は現在のイラン、南はエジプトを支配に置き、西欧に徐々に版図を広げてきているまさに怪物国だ
そんな時にフランス王フランソワ1世と皇帝カール5世は戦争を繰り返し
1524年ついに、カール5世が勝利。
フランソワ1世は敗北しマドリード捕囚となる
その囚われた先からフランソワ1世が助けを求めた先が、なんとオスマン帝国なのだ
オスマン帝国スルタン スレイマン1世は、
1526年フランソワ1世の手紙を受け取り、皇帝カール5世を叩く為
1529年ウィーンに遠征
これはカール5世は何とか凌いだが、捕囚から解放されたフランソワ1世に、またカール5世は戦争を挑まれてしまう
そしてオスマン帝国スレイマン1世の脅威は去っていない
つまり皇帝カール5世に英国を攻撃する余裕は無いと判断したからこそ
1532年 英国国教会設立という大胆な策をとり、キャサリンと離婚したのだ
「なのに、なのにだ!!!」
「何故、産まれたのが娘なのだ?」
ヘンリーは生まれてくる筈の王子の名を「エドワード」と決めていたが
仕方ない「エリザベス」とし、
王子誕生を予言した者達を、冷徹に処分する。
そして、もう静かにヘンリーは次の戦いを始めていた。
そして、それは、彼にとっては難しい事ではない
「アンに男が産めなければだ、、、、、英国の存続の為に、、、、だ」
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