第10話
「もしあの子(エリザベス)が男の子だったら」
アン・ブーリン王妃は夫王の浮気など気にもかけなかっただろうし
毎朝の時禱書朗読を侍女達に強いる事もなかったにちがいない。
何故なら、カトリックの侍女は全員を
浮気相手のジェン•シーモアも
ハットフィールド宮でエリザベスに仕えている前王妃の娘メアリーも
例外なく纏めて全員を
処刑するからだ。
このアン王妃の危険な腹の中を
敵のカトリック一派も理解している。
だから自身と家族の命を守る為
「アンに男子が授かる前」に何とかしなければならないともがいている
うら若き侍女ジェン・シーモアもその一人だ
毎朝の時禱書朗読の仏語が分からず、下にうつむいてるだけではない
父の言いつけを守り、ヘンリー8世の求めに応じず、「ある言葉」を待つ事で、カトリックの彼女は戦っていた
そんな中、
アン王妃が先に動いた
いや、動いてしまったのかも知れない
エリザベス王女を授かって半年ほどしか経過していないのに焦ったのかも知れない
1534年春 「グリニッジ宮殿」の寝室で
「さあ、アンとのいつもの重要業務遂行だ」と
上着を脱ごうとしたヘンリーの手をアンが制す
「ヘンリー王、子供ができたかも知れません」
「・・・」
しかし、ヘンリー8世は反応しない。
そしてゆっくりアンに背を見せベッドに座ってしまう。
アンは、言葉を失う
(ヘンリー?何故、何も言わないの?喜んでないの?今度こそ王子かもしれないのよ)
「ヘンリー王、もう一度申します。子供ができたかも知れないのです」
「・・・」
それでも沈黙する夫にアンは青ざめた
ヘンリーは馬鹿ではない。
子供はできてない事、
そう、妻アンの偽装妊娠だと勘づいている
それでも黙ってるのは
「嘘をつけ!妊娠などしてはなかろうが!」
と怒鳴るのを抑え、頭を整理していたからだ
①今すぐアンを偽装妊娠の罪で処刑はできないか?
②妊娠していない事が明らかになったところで処刑するか?
③いや、もうちょっと考えよう。アンの処刑の時期と理由を
ヘンリー8世はそこまで考えてから振り返り
精一杯優しく妻に声をかけた
「では、アン王妃。子供の為に、ゆっくりしなさい。可愛い『王子』の為に」
とヘンリーはベッドに横になり天井を見上げた
そろそろジェン・シーモアに「望む言葉」を授ける時期かも知れない
そう考え始め眠りについた
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