第18話
1544年10月つまりヘンリー王が出征してから3か月後にはドーバー海峡に面するフランス領ブローニュを征服し
ヘンリー8世は凱旋帰国した。
ロンドンでは大歓声、しかし存在感を増したのは、ロンドンで留守を守ったキャサリン・パー王妃であった。
王の外征中、軍事費が嵩み王宮政府は財政難に陥るも、彼女は的確に枢密院に指示し追加戦費を捻出し、勝利に大きく貢献。
更に北のスコットランドを攻撃して王不在のロンドンの守備を盤石にした。
こうして僅か3ヶ月で摂政女王としての能力を示し信頼を勝ち得たキャサリン・パー王妃は
次に英国国教会のプロテスタント化を目指し動き出す。
カトリック勢力を敵に回す危険な賭けに。
聖書の勉強会を開催。
彼女の信条は4つ
①神には絶対服従
②人は罪深い
③行いではなく、信仰によってのみ救われる
④その信仰は欺瞞なローマカトリックの儀式ではなく、聖書にある
そして5つ目がある。
⑤神の御使いは・・・!
かつてアン•プーリンはカトリック教徒を炙り出す為に時禱書朗読をした。
一方キャサリン・パーは陥れる為ではなく、母性溢れる語り口で改宗を試みた。
一連のキャサリン・パーの行動でプロテスタント信者が増加。これに危機感を募らせ、・・
いや、のし上がるチャンスと見たのが
ウィンチェスター主教スティーブン・ガーディナーと大法官トマス・リーズリー
英国南部のウィンチェスター教区は最古の教会区にもかかわらず教会序列は
カンタベリー教区とヨーク教区より格下の3位に甘んじている。
ウィンチェスター主教ガーディナーはこの序列3位を不満とし、ヘンリー王に取り入り順位を上げようと目論んだ。
ガーディナー主教はヘンリー8世に囁く
「キャサリン王妃は‘6ヶ条法’を無視し周囲に聖書朗読を強要させているばかりか、神の御使いであるヘンリー王を否定して居られます」
ガーディナー主教が持ち出した‘6ヶ条法’。
1539年制定され、聖書の英訳版を禁止している。
要は理由をつけてプロテスタントを陥れる法律で、かつては切れ物のトマス•クロムウェル宰相を罠にかけ葬りさる程の危険な法律だ。
ヘンリー王は言葉を選んで指示した。
「ガーディナー主教よ、それが‘本当なら’重罪だ。用心深く調査するよう」
・・
さあ、キャサリン王妃。
カトリック勢力の罠にかかり処刑されたアン・プーリン元王妃とは違って脇は甘くない。
それに彼女は既にヘンリーの右腕であり、枢密院をもコントロールできる力量がある。
更にスコットランドからの侵攻の抑えが効くパー1族だ。
つまりキャサリンは英国統治に重要でありヘンリー8世は彼女の処罰は避けたいのだ。
数日後、1546年8月やはりガーディナー主教は無理くり材料を集めでっちあげた
「ヘンリー王。やはり王妃の宗教熱は異常です」
ガーディナー主教が報告したその日の夜の内に
キャサリン王妃は予告なく突然、ヘンリー王の寝室に入室する。
ヘンリーは不意を突かれた。
「キャサリン、そなた、どうした。・・?」
「何故黙って居る?・・おう、そうだ、ガーディナーより聞いたが・・」
この「ガーディナー」と発するのを待っていたかのようにキャサリンはヘンリー王の胸に飛び込んだ
「不安なのです。ヘンリー王。私は神に罰せられるのではないかと。私は英国を間違った方向に導いてはいないかと」
キャサリンは、最大限さりげなく、自身の英国への貢献度と存在感をヘンリー王にリマインドする。
「キャサリン王妃よ、何を言うか。朕が外征中にはよく助けられた。そなたが居なければ・・・」
「ヘンリー王、私は無能力な罪人です。そんな私をお救いできるのは、『神の御使い』であるヘンリー王ただ一人だけなのです」
そう、彼女は5つ目の信条を吐露する。彼女の本意は不明だ。しかし彼女は生き延びる為に、神の御使い、ヘンリー王に帰依していると告白した。ヘンリー王の偉大さを広める為に、彼女は聖書勉強会を開いているのだと
そしてヘンリーの体に触れる。
ヘンリーは太ってあちこちに痛みがでている。彼女は2回の結婚での夫への介護の経験がここで活きた。そしてまだ彼女は32歳。性的な魅力も計算の上で、優しくヘンリーの痛みを和らげる。
次の日の朝、キャサリンは談笑しながら腕を組みヘンリー王と外に出た。
リーズリー大法官は驚く
ガーディナー主教から、キャサリン王妃が一人で出てきたところを捕まえるように事前に言われていたからだ。
数十名従えて物々しく待機しているリーズリー大法官にヘンリー王は怒鳴る。
「リーズリー、何事だ!下がれ、この、大馬鹿者が!」
王妃と同居するエリザベスは、一連のキャサリン王妃の立ち居振る舞いを間に当たりにした。
「キャサリン王妃、格好いい!」
彼女から多くの事を教わった。
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